ネイリストの協会に〝抄録(しょうろく)″が存在する⁉

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みなさまは、日本保健福祉ネイリスト協会で複数の研究や事例結果をまとめた『抄録集(しょうろくしゅう)』が存在することをご存知でしょうか。抄録(しょうろく)と言えば、学会発表や研究論文などを思い浮かべる方も多いかと思います。日本保健福祉ネイリスト協会(以下、当協会と称する)というのは、名前の通りネイリストたちの集まる協会ではありますが、ではなぜネイリストの協会で〝抄録(しょうろく)″が存在するのか、その背景と今後の展望も踏まえてご紹介していきたいと思います。

 

抄録とは

 

学会発表や学術論文を発表する際に、その内容を概ね「背景」「目的」「方法」「結果」「結論」の項目について端的に短くまとめた文章のことです。実際に発表を行う前に事前資料として参加者に配布されたり、学会の記録として発表者の抄録(しょうろく)をまとめた〝抄録集(しょうろくしゅう)″をその協会で保有することがあります。すなわち、抄録(しょうろく)というのは、研究や学会発表等を行わなければ存在しないものであり、抄録(しょうろく)を保有している協会では、学会発表等を行った証となるのです。

 

認知症×ネイルの研究を実施

当協会では岡山県吉備国際大学の理学療法学科准教授であります佐藤三矢先生と共同で介護老人保健施設に入所中の認知症高齢者(女性)を対象とした『ネイル・カラーリング・セラピー(彩爪療法)』の介入効果に関する研究を行っております。こちらの共同研究は文部科学省の科学研究助成事業でもあり、ネイルが認知症高齢者の方に与えるプラスの影響を研究し、証明していく取組みがなされています。

 

昨年ネイリストの業界で初めて研究集会を開催

当協会は、2012年から活動を開始し、4年前から毎年福祉ネイリストの日頃の活動や利用者様との関わりを発表させていただく福祉ネイリストアワードを開催しております。また、昨年度は、2019年10月14日にネイリストの協会で初めてとなる研究集会を開催いたしました。

こちらの学術集会では、全国から20演題がエントリーされ、ネイルでの介入を通して福祉ネイリストたちが日ごろ感じている効果であったり、変化を数値や文章で記録に残し、ネイルの効果を証明できる根拠として発表いたしました。

福祉ネイリストたちは、日頃高齢者の方や病気や障害を抱えた方にネイルを施術すると、みなさんが笑顔になり、会話が増えたり、日常に活力が生まれたりとそのネイルの効果を肌で感じているはずです。しかし、当協会の学術顧問でもあります佐藤三矢先生も申しておりますが、そのネイルの力を伝えていく上で常につきまとう最大の困りごとは「先行研究の少なさ」だということです。

自分たちの力で、たくさんの方に福祉ネイルの効果や必要性を伝えていくための一歩として、当協会はそういったネイルに関する研究や学術集会を行っているのです。

 

抄録集の中の一演題をご紹介

タイトル

認知症高齢者におけるBPSDとQOLの改善を目的としたマニキュア介入~準ランダム化比較試験を用いた検証~

坂本 将徳(福祉ネイリスト、作業療法士、保健学修士)

日本保健福祉ネイリスト協会(大阪心斎橋校所属)、介護老人保健施設 古都の森、
岡山県レクリエーション協会(理事)、 広島大学大学院医系科学研究科(D2)

はじめに

日本は現在、未曽有の超高齢化社会を迎えており、高齢化に伴って認知症の有病率が顕著な上昇傾向にある。認知症患恵者が増加する実情の中、認知症に対する治療的なリハビリテーションの需要が高まっているものの、現行の介入方法に対するエビデンスレベルの低さが指摘されている。認知症リハビリテーションの原則としては、薬物治療よりも非薬物的介入が優先されているため、現行の非薬物的介入以外で新しい介入方法の検討が必要と考えられる。

認知症患者は、加齢や認知障害の進行に伴って日常生活に介助を要する状態に陥り、”BPSD(behavioral and psychological signs and dementia)”すなわち「認知症の行動および心理症候(周辺症状)」が顕著に出現し始めると病院や施設への入院・入所に至る事例が多く見受けられる。 BPSDは、認知症患者に高頻度でみられる「認知・思考内容・感情行動」などの障害と定義されており、対処が不適切な場合には、認知症の早期進行や介護者負担(身体的・精神的)の増加がみられる。実際に特別養護老人ホーム等の高齢者入所施設においてもBPSD 症状が高頻度で確認されることが多く、施設職員も対応に苦慮している実態がある。

このような状況の中でBPSD が顕著にみられる方へのマニキュア介入を実施した際に見受けられた「豊かな表情や精神面の落ち着き」を手掛かりといて、認知症のBPSDに対しての効果が期待できるのではないかと考えた。マニキュアは手軽におしゃれをした気分になることが期待できることからQOL (Quality of life) に対しても効果が期待できる。しかし、マニキュアに関する先行研究は散見されるものの、マニキュア介入とBPSDに着目した研究が皆無であるのが現状である。

そこで今回、対象者を特別養護老人ホームに入所中の認知症を呈する女性高齢者として、マニキュア介入によるBPSDを含む精神機能面の変化について着目し、比較臨床試験(controlled clinical trial)に属する準ランダム化比較試験を用いた効果検証を試みた。

 

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結果
QOL-Dでは、下位項目の「周囲との生き生きとした交流」と「対応困難行動のコントロール」で有意な交互作用(p<0.01)が認められた。また、NPIでは「合計得点」と「負担度得点」に有意な交互作用(p<0.05) がみられた。MMSE、QOL-Dの下位項目「自分らしさの表現」では有意な交互作用が認められなかった。

考察
本研究では、PSD の評価尺度であるNPI において有意な交星作用が認められた。平松によると女性40 名を対象にマニキュア使用前後の感情変化をPOMS(Profile of Mood State)で測定した結果、POMSの下位項目である「緊張一不安」「抑うつ一落ち込み」「怒り一敵意」「疲労」「混乱」が有意に減少したと報告している。また、阿部らは化粧やマニキュア介入中の対人相互作用や肌に触れる事でのマッサージ効果が感情調整作用として寄与していると指摘している。これらの先行研究は対象が認知症高齢者ではないものの、興奮状態の緩和や不安の軽減など精神面の改善をもたらす結果を報告している。

認知症高齢者を対象としたマニキュア介入の先行研究でもマニキュア介入によって施設入所中の不安やストレスを軽減させ、BPSDの改善をもたらしたと報告されている。本研究でも先行研究と同様にしてマニキュアの作用によって認知症を有する高齢者の精神面の改善がみられ、NPI の評価項目である興奮・不安・うつ等の得点に影響を及ぼしたと考えられる。

また今回、QOL の評価尺度であるQOL-D において有意な交互作用が認められた。平松はマニキュア使用後の感情変化において「活気」が増加したと報告しており。提谷らはマニキュアを爪に塗布することは爪へ の化粧行為と捉えられると指摘している。また、Cashらは、化粧後の顔を鏡で確認することによって自己の「顔」や「全体的な容姿」に対する満足度が上昇するとも報告している。マニュキアは鏡を必要とせず、場所や時間に影響を受けずに介入後の爪を見ることが出来るため、本研究の対象者における気分の高揚や前向きな思考にさせ、QOL の改善に影響したと考えられる。

 

今後の展望

現在(2020年9月時点)、日本保健福祉ネイリスト協会では、全国に950名を超える福祉ネイリストたちを輩出してきました。しかし、まだまだ協会としての歴史は浅く、これからより多くの福祉ネイリストたちを増やし、福祉ネイルがこの世の中に当たり前に存在し、提供できるように周知する努力を続けていかなければなりません。私たちの対象は主に、高齢者や病気・障がいを抱えながらも懸命に生活している方々です。万人の方に通常のネイルを施すことでの喜びだけではない、たくさんの効果を届けられるよう、福祉ネイル介入の根拠や意味を私たち自身が証明していかなければならないのです。

今後、当協会ではネイルを用いた治療的介入の効果を確立するために、ネイルが与える様々な効果に対する研究を行い、研究集会を継続して開催していきます。そして、10年後、20年後にはさらに多くの優れた研究結果が蓄積されることでしょう。

 

福祉ネイリストとして求む人材

現在、当協会に所属している福祉ネイリストの中には、元々ネイリストをしていた者や、ネイルの資格は持っていなかった主婦・営業職の者、看護師・介護福祉士・理学療法士・作業療法士などの医療福祉関係の資格を保有している者など様々な背景を持った方たちが集まっています。

今後更なる福祉ネイリストが増えていくことを望む中で、医療福祉介護の現場で働く方々にも福祉ネイルを知っていただき、より多くの方に福祉ネイリストの資格を取得してほしいと考えています。

今年新型コロナウイルス感染症が流行し、外部の関わりである私たち福祉ネイリストたちは、大切な高齢者の方々を抱えている施設への立ち入り制限が生じ、今も尚、福祉ネイルの提供が一部途絶えてしまっている現状があります。命や生活を守るための大事な決断ではありますが、こんな時、福祉ネイリストの資格を持った医療や介護の現場スタッフの方々がより多くいたならば、もしかしたら福祉ネイルを途切れることなく提供でき、外部との接触が減ってしまった施設利用の方々に少しでも彩りや喜びを与えられたのではないかと考えています。

福祉ネイルの効果ややりがいをもっとみなさんに伝え、医療福祉介護の現場スタッフの方にもより福祉ネイリストの資格取得が広がればと切に願っています。

 

まとめ

昨年度、当協会で研究集会が開催され、抄録(しょうろく)が存在するということは、私たちの『福祉ネイル』が娯楽のためのネイルだけではない、〝医療″や〝福祉″という観点に重きを置いたネイルであることを証明する第一歩だったのです。これからは、全国の福祉ネイリストたちがより多くの高齢者の方や病気・障がいを抱えながらも懸命に生活している方々にネイルを通して感動を与え、生活に彩りを放ち、万人が輝きある人生を送れるようサポートすることで、医療や介護の分野においても貢献していきます。

 

髙橋 慶香(たかはし ちか)

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おじいちゃんおばあちゃんが大好きな作業療法士×福祉ネイリスト。その他、医療福祉系を中心としたWEBライターとしても活動中。モットーは「心が動けば体も動く」。

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