【回想法・ユマニチュード】自己肯定感を与える福祉ネイルとは?

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みなさまは、福祉ネイルが認知症高齢者の方のQOL(生活の質)やBPSD(周辺症状)に効果があると期待されていることをご存知でしょうか。福祉ネイルでは、ただ爪に色を塗りアートを描き、キレイにすることだけを目的としているのではありません。高齢者や障がい者の方を対象とする福祉ネイルでは、特に認知症高齢者の方に対し、様々な手法を用いながら認知症の症状緩和や重度化の軽減を図る目的でも実施されます。

最近では、日本保健福祉ネイリスト協会で、そういった認知症高齢者の方への福祉ネイルが与える効果研究も進められています。

実際に福祉ネイルはどのように認知症高齢者の方へ介入し、どういった効果が期待されているのかをご紹介させていただきます。

 

福祉ネイルとは

福祉ネイルとは、高齢者や障がい者の方を対象に、施設や自宅に訪問してネイルを施術します。ネイルの基本的な技術と高齢者や障がい者に施術をする上でも知識を学んだ福祉ネイリストという資格を取得しているネイリストが実際に施術を行うのですが、通常のネイルとは異なる、特に取り入れられている手法をご紹介します。

 

ユマニチュードを活用

ユマニチュードとは、認知症の方に用いられるケア・コミュニケーション技法の一つで、手から伝わるふれあいや話し方、目線を合わせることで、相手に安心感や自己肯定感を与えます。

ネイルを施術する際、そのユマニチュードという考え方を意識し、優しく触れ人の温かみを感じ、目線を合わせて寄り添うように優しく対話をしながら進めていきます。

 

回想法を活用

認知症の非薬物療法のひとつとしても用いられている回想法は、認知症の方が比較的保持しやすい昔の記憶をさかのぼり、その思い出を話しながら思考を巡らせることにより、脳を活性化するとも言われる心理療法です。

ユマニチュードと同様に、ネイルを施術しながら福祉ネイルでは会話もとても大切にします。認知症の方に対しては、この回想法を用いて、ご本人の昔の良き思い出に触れ、爪がキレイになる喜びと共に、心理的幸福感を与え、更には脳を活性化させる効果をも期待し介入しています。

 

彩爪介入という捉え方

ただ高齢者や障がい者の方にネイルを施術するということではなく、ユマニチュードや回想法を用いながらネイルを行う福祉ネイルは、最近では彩爪介入(療法)という位置づけをされています。より、医療や介護の現場での治療やリハビリ的介入の目的に近いことを表しており、今後、その効果を更に示していく取組みとして、ネイルを用いた研究が進められているのです。

 

認知症高齢者について

福祉ネイルでは、特に認知症高齢者の方への介入に力を入れております。それは、福祉ネイルを提供する方の中には認知症を呈している方の割合が多いこともありますが、福祉ネイルが認知症高齢者の方に適応しやすい理由があります。これらの理由を認知症高齢者の特徴と実際に行われている介入についてご紹介しながら説明していきます。

 

認知症高齢者の特徴

厚生労働省によりますと、65歳以上の高齢者のうち、認知症を発症している人の割合は、2012年時点で推定15%を超え、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症を発症すると言われています。

認知症を発症すると、最近の出来事から覚えられなくなる記憶障害がみられるようになります。ごはんを食べたことを忘れてしまったり、物をなくしやすくなったり。自分がなぜこの場所に来たか、今は何時で、ここはどこなのかがわからなくなってしまいます。記憶障害を含む、様々な脳の機能低下により、物事を考え理解したり、上手く対処することができなくなってしまいます。

そのような障害がみられると、ご本人は混乱したり、何もやる気が起きなくなる、はたまた、感情がコントロールできずに怒りやすくなる場合もあり、ひと昔『問題行動』と言われた認知症のBPSD(周辺症状)が進行し、介護スタッフやご家族の介護量が増加していくのです。

 

認知症高齢者に必要な介入

認知症高齢者の方に必要なことは、認知症による様々な障害や生活上の助けが必要であっても、認知症と上手く付き合いながら、できる限りご本人らしく穏やかに生活できることなのです。それは、認知症を呈したご本人だけではなく、ご家族や介護スタッフにとっても大切なことです。

認知症は現在、ごく稀な症例を除き、元の状態に戻ることは難しいとされています。

だからこそ、認知症の進行をできる限り緩やかにし、ご自分でできることを維持する、その人らしさを大切にするために医療や介護現場のスタッフたちは関わりを工夫しています。例えば、環境設定をしたり、ご本人が混乱しないようわかりやすく伝える、生活の中に季節を感じられたり、楽しく脳を活性化できるようなレクリエーションを取り入れたり。

これらの医療や介護現場で行われている認知症の方への介入は、身なりをキレイにすることで自分を取り戻したり、温かな対話をすること、脳を活性化するという福祉ネイルの関わりにとても近いものがあり、だからこそ、認知症高齢者の方に福祉ネイルが適応しやすいのではないかと考えています。

 

認知症高齢者に福祉ネイルが与える効果とは

福祉ネイルは認知症高齢者の方にどんな効果を与えることができるのか、その理由も含めて具体的にご紹介していきます。

 

爪がキレイになることによる喜び

まず一番に得られやすいのは、やはりご自分の爪がキレイに彩られることによる喜びです。女性はいくつになっても女性ですし、もちろん、女性だけではなく、男性でもネイルやケアをして喜んでくださる方がたくさんいらっしゃいます。

近年では、介護施設でのヘアカットやカラーなどの訪問美容師、化粧療法なども広がりつつあります。年齢を重ねても、身なりを整えるということは、自分を意識するきっかけでもあり、たくさんのプラスの効果が期待されています。

そういった中で、ネイルというのは、施術時間は約20分と短く、入浴や手洗いで落ちることがないので、彩ったキレイさをその日だけではなく比較的長く持続することができます。さらには、手元ということで、ご本人の視界にすぐ入りやすく、鏡などの道具を使わなくても、容易に見ることができるので、認知症高齢者の方にとっても気づきやすいという利点があります。

 

精神面の安定

ユマニチュードや回想法を用いながら福祉ネイルを行うことで、認知症高齢者の方も心穏やかになり、自己肯定感などを得ることができます。認知症によりネイルをしてしまったことや誰にやってもらったなどの事柄は忘れてしまっても、嬉しかった感情は残っています。キレイに彩られた爪を見ることで、介入後もその喜びや幸せな気持ちを思い出し、精神面の安定を期待することができます。

 

コミュニケーションの拡大

福祉ネイルでは、1対1で向き合い、優しく手を触れ合いながらネイルを施術することで、自然と心の距離が縮まり、穏やかな会話が生まれます。ネイルというツールを介しながらの会話のため、緊張感もほぐれ、自発的な発言が少ない認知症の方でも、自然と言葉が出てきたりもします。

そして、ネイル施術後には、他の利用者様やスタッフから「きれいだね~」と声を掛けられることにより、他者とのプラスのコミュニケーションが生まれやすく、褒められることで、さらにその方や周りに笑顔が増えるという相乗効果を生むことができます。

 

まとめ

このように、福祉ネイルが認知症高齢者の方に与える影響というのは、様々な効果が期待できます。認知症を発症しても、その人らしく、心穏やかに生きていくための一つの介入の手段として今後より福祉ネイルが全国に広まっていくことを願っています。

また、福祉ネイルの効果に関しては、まだまだ立証されている根拠が少ないのが現状です。より多くの方に、福祉ネイルの必要性を明確にお伝えし、理解していただくために、日本保健福祉ネイリスト協会では、更なるネイルの可能性の研究を進めていき、彩爪介入(療法)という福祉ネイルの形がしっかりと治療的介入の意味をも成すことを証明する取組み行っていきます。

髙橋 慶香(たかはし ちか)

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おじいちゃんおばあちゃんが大好きな作業療法士×福祉ネイリスト。その他、医療福祉系を中心としたWEBライターとしても活動中。モットーは「心が動けば体も動く」。

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