認知症の方への接し方~認知症の方を知り、自分も大切に~
身近な方や介護している方が認知症になったらどのような接し方をすればよいのか、自分が支えていくことはできるのだろうかと誰しもが不安になると思います。
しかし、その不安は、認知症がどのような病気であって、認知症の方がどう感じているかがわからないために生じるものではないでしょうか。認知症を患ってしまった方の想いを知り、より良い接し方を理解することで、今後に対しての漠然とした不安は軽減していきます。今回は、これからの介護に無理なく向き合っていけるように、認知症の方への接し方のポイントと、介護していくご自身のことも大切にする方法をご紹介していきます。
認知症の方を正しく理解しよう
認知症の方への接し方を理解するためには、まず認知症の方の立場になって感じていることや想いを理解することが大切です。認知症の方を支えているご家族や介護スタッフの方は、時に理不尽でやり場のない想いを感じている方も少なくないと思います。しかし、認知症のご本人も同じように苦しみ、感じています。
高齢者の身体的特徴
認知症を患っている方に関わらず、誰しもが年を重ねることによって、身体の様々な機能が衰えていきます。例えば、全身的な筋力・体力の低下で動くことが億劫になるだけではなく、視力や聴力の低下により、音が聞こえにくくなります。また、感覚機能が低下し、暑さ寒さを感じるのが鈍くなる、喉が渇いていることに気づきにくくなる。食欲の低下や食べ物の消化機能が低下し、食事量が減ってしまうこともあります。
認知症の特徴
認知症の方は、記憶障害によって、特に最近の出来事を覚えていることが難しくなります。また見当識障害といって、ここはどこなのか、季節はいつなのかなどもわからなくなってしまいます。誰かに話しかけられたり、説明されても、理解力・情報処理能力の低下により、その場で理解することが難しく、困惑してしまうのです。そして、困惑していたり、気持ちの整理が上手くできずに、徘徊したり、暴言暴力を振るってしまうこともあります。
認知症の方の想い
身近で介護している方が認知症になり、物事を覚えていることが難しくなったり、その場の状況が正しく理解できなくなっていくことに介護者の方が困惑すると同様に、認知症を患ったご本人も、自分の状態にとても困惑します。そのことを相手に上手く表現できなかったり、自分の考えとは現実が異なることでどんどん不安を募らせていきます。
認知症の方の問題行動とされる『徘徊』や『不潔行為』『介護拒否』『暴言暴力』などといった事象には、実はご本人なりの理由があったりもします。
例えば、夕暮れ症候群と呼ばれる事象で夕方になるとソワソワと落ち着きがなくなり「家に帰らないと。」と家から出ていこうとすることがあります。実は、その方には昔家族みんなの夕飯を毎日作るという大事な役割があったり、もしくは、夕方までに家にいないと姑さんに叱られたという経験が根強く残っていたりすると、その昔の記憶によって「家に帰らなければ」という帰宅願望につながったりもします。
便いじりなどの不潔行為では、なんとなくオムツの中が気持ち悪かったり、漏らしてしまったという羞恥心から自分で何とかしようと思うけれど、結局上手くいかずに周りを汚してしまったり。
介護拒否や暴言暴力に関しては、今は何をする時間なのか、なぜそうしなければいけないのかが理解できないまま、声かけなどなく不意打ちで体を触られたり、服を脱がされたりすれば、誰しもが拒否的になり、嫌悪感を抱きますよね。
こんな風に、認知症になったご本人の想いを相手の立場に寄り添って考えてみると、理解できる部分もあるかと思います。
認知症の方への接し方のポイントと対処法
では、そんな認知症の方にはどのように接したらよいのでしょうか。認知症になった方を理解した上で、相手の立場になって考えてみましょう。
同じ目線で、ゆっくりシンプルに話そう
相手が座っている際に、立った状態から見下ろして話しかけることは相手に威圧感を与え、嫌悪感に繋がります。相手と同じ目線で、相手がしっかりと話しを聞く準備ができてから、大きな声でゆっくりと話してあげましょう。
後ろから話しかけたり、いきなり肩をたたくのではなく、相手の視界に入ってから話しかけると自然と抵抗感がなくなります。また、認知症の方は長い言葉や複雑な説明を理解することが困難です。そのため、できる限りわかりやすく、シンプルな言葉で説明してあげるとよいでしょう。
否定・訂正しない、傾聴が大事
認知症の記憶障害により、何度も同じことを言われたり、事実とは異なることを主張された際、「もう同じことを何回も言って!」と叱ったり、否定・訂正したりしたくなりますよね。認知症の方は出来事は忘れてしまっても、その時感じた感情は残ります。
認知症のご本人にとっては初めて伝える大事なことであったり、不安いっぱいでやっと相談したことを叱られたり、否定されては、より悲しみや怒りの感情が残りやすく、介護者に対しての不信感が募っていく悪循環へとつながってしまいます。介護者の方も苛立ってしまう感情を一呼吸して抑え、ただ傾聴すること、相槌をうつことが大事です。
放置しない、役割を与え感謝を伝えよう
認知症の方が何もできない・わからないからといって放置することもよくありません。孤独感を与えることで、不安感を助長させ、問題行動が悪化する場合があります。存在意義を感じてもらうために、何かご本人の好きな簡単な作業を行うなど役割を与えることで、落ち着いて過ごせる時間が増え、「ありがとう」という言葉によって、相手も自分も穏やかな気持ちになることができます。
具体的な対処法
今食べた食事を食べていないと言われたとき
ごはんを今さっき食べたにも関わらず、「ごはんはまだか?早くちょうだい。」と言われた際には、「わかりました。じゃあ今用意するので、お茶でも飲んでいてください。」と言ってお茶を出すと、その場は落ち着き、しばらく経つと、ごはんを要求したことを忘れていたりもします。
「家に帰らないと」と家を出ていこうとしたとき
ご本人がなぜ帰りたいのかという理由を探り、その理由によって「今日は変わりに○○がごはんを作ってくれたそうですよ」や「今日はお義母さんは用事があって帰ってこないようですよ。」などの安心する言葉をかけてあげること。また、時間が許すのであれば、「では一緒に行きましょうか。」と少し外を散歩することでご本人が発散できることもあります。
便いじりなどの不潔行為があるとき
失禁などによりオムツが汚れてしまった際には、介護者の方も落ち着いて「新しいものに取り換えましょうか」と優しく声かけをしたり、こまめにトイレ誘導するなどして未然に防ぐ。また、物品があれば自分で交換できる方であれば、交換するオムツやおしりふきをご本人にわかりやすく配置しておくという工夫もできます。
暴言暴力がみられたとき
暴言暴力が見られて興奮状態にある時には、何を言っても状況を悪化させるだけです。安全を確保した上で一度その場を離れたり、別の方に話を聞いてもらうなどの対処法をとり、その場を落ち着かせることが大切です。
介護者自身も大切にしよう
これまで認知症の方への接し方のポイントや対処法をお伝えしてきましたが、このように全てが上手く対応できることばかりではありませんよね。認知症の方を介護していく方にも身体的にも精神的にもかなりの負担がかかってくると思います。そんな時にはぜひ介護者の方ご自身のことも大切にし、対処法をとってください。
一人で抱え込まずにサービスを活用し、専門家に相談する
身近な方が認知症になった場合、病院に受診したり、介護保険を受けられる場合があります。その際には、お一人で抱え込まず、多職種の専門家に相談し、ぜひ介護サービスを活用してください。専門家や他の人に頼ることは決して悪いことではなく、介護者の方だけではなく、認知症ご本人にとっても良い効果を得られることが多くあります。
時に離れて、自分の時間も大切にする
介護から離れて、自分の時間を作ることも大切です。無理をして介護を背負い込むのではなく、自分の息抜きも大切にするからこそ、心のゆとりができ、認知症を患った方にも、一呼吸おいて、優しい言葉かけができるのです。自分自身のことも大切にしながら、介護とメリハリをつけて向き合ってみてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。認知症の介護というのは、長期戦でとても忍耐力を必要とするものです。介護者に対しての精神的負担もかなり大きいことから、介護者の方が介護うつを患ってしまうことも少なくはありません。ご自身のことも大切にしながら、頼れる人やサービスを最大限活用しながら、認知症を患った大切な方と、できる限り穏やかに過ごせるように向き合ってみてください。