高齢者が陥りやすい老人性うつとは 原因と適切な対処法を知ろう!
高齢になると、さまざまな環境の変化や加齢に伴う身体の衰え、病気のリスクが高まることによって、うつ病になりやすくなるのはご存知でしょうか。
2017年に示された厚生労働省のデータでは、65歳以上の高齢者のうち31.7%の人がうつ病などの気分障害を患っていたという結果が出ており、高齢者の自殺原因の第2位がうつ病であるとも言われています。
うつ病は、適切な治療や対処を行うことで状態が改善する可能性があります。うつ病になりやすい高齢者ならではの背景を知ること、そして、早期に適切な対応をとることが重要になってきます。
今回は、高齢者がうつ病になりやすい原因と症状について解説するとともに、さまざまな対処法をご紹介していきます。
高齢者がなりやすい老人性うつとは
高齢者は加齢に伴い、認知症を発症する可能性が高くなるということは近年知られていることだと思います。認知症の症状の中にも、うつの症状がみられることがあるため、区別がつきにくい場合があります。
特に、日頃から家族との接触が少ない方や、近所付き合いがない高齢者の場合、うつ症状がみられていても周囲の方が気がつかず、知らぬ間に状態が悪化してしまうことがあるため注意が必要です。
老人性うつ
老人性うつとは、65歳以上の高齢者がうつ病を発症した場合に用いられる名称で、正式には老年期うつ病といいます。うつ病は年齢関係なく発症する可能性がありますが、高齢者においては、身体的な衰えや脳細胞の変化、生活環境の変化など、うつ病を発症する要因が重なりやすいことから、誰にでも発症する可能性があるとも言えるのです。
また、老人性うつの場合、高齢者特有の症状がみられ、精神面だけではなく身体症状にも注意する必要があります。
高齢者がなりやすい原因
高齢者が老人性うつになりやすい背景には、加齢に伴う身体的変化と環境の変化が大きく関わっています。それぞれに代表される要因を下記に示します。
【身体的変化】
- 筋力・体力の低下によって思うように身体が動かない
- 別の病気を発症し、死や予後の不安を感じる
- 加齢に伴い、身なり容姿に自信がなくなる
【環境の変化】
- 配偶者や友人が亡くなった
- 退職し、仕事や役割がなくなった
- 子育てがいち段落し、気が抜けた
このように、さまざまな身体的変化や環境の変化が重なり合うことで、うつ病を発症しやすくなります。また、老人性うつは生活習慣病とも深い関係があります。うつ病と糖尿病では互いに発症リスクが上がることが報告されているため、生活習慣病などの原疾患となる病気の管理や予防も重要となってくるのです。
主な症状
うつ病では、下記のような症状が見られます。
- 気持ちが落ち込む
- 不安が強い
- 何事にも興味や喜びが湧かない
- 集中力や注意力が散漫になり頭の中がぼんやりしている
- 疲れやすい
- 不眠または過眠
- 食欲低下もしくは過剰に食べてしまう
- 死にたくなる
このような症状が一日のほとんど、2週間以上続いている場合にはうつ病を疑い専門科(精神科や心療内科)を受診しましょう。そして老人性うつの場合、さらに頭痛や吐き気、めまい、肩こりやしびれ、耳鳴りなどの身体症状が現れることが多くあります。
うつ病は症状が長期間続くことにより、日常生活や仕事、社会生活に支障をきたすことがあるため、早めの専門科受診が必要となります。
また、老人性うつは、何らかのきっかけで発症し、要因や環境によっては短期間で症状が一気に悪化することもあるため、小まめに日頃の変化を第三者が確認することが重要となります。
老人性うつの治療
老人性うつは、高齢者にとって珍しくないものですが、適切な治療を行えば回復が見込まれる病気です。老人性うつに対して行われる代表的な治療を3つご紹介します。
薬物療法
老人性うつでは、抗うつ剤などを使用した薬物療法が適応されます。しかし、抗うつ剤の中には、副作用として血圧を下げたり、頻脈が生じるものや緑内障患者には使えないものがあるなど、他の病気や服薬との兼ね合いを医師と相談して決めていくことになります。
精神療法
精神療法は薬物療法と併用して行われることが多く、専門家によるカウンセリングや作業療法士による精神科リハビリテーションがあります。家族がうつ病患者に対し、適切な声かけや接し方を行うことや、リハビリで作業活動を通して精神症状の緩和や社会復帰などを目指していきます。
環境調整
老人性うつの方にとって、環境はとても大事です。特に孤独感を感じてしまう方が多いため、家族や友人が小まめに訪れたり、穏やかな気持ちで暮らせる環境を作る、地域活動に参加して他者と楽しい時間を過ごせるよう調節するなど、環境面でのアプローチも必要となってきます。
家族が老人性うつになったら気をつけるべきポイント
大切な家族が老人性うつかもしれないと気がついた時点で、ご家族にできることはたくさんあります。近くにいる方だからこそできる重要なことですので、これからご紹介するポイントを意識しながら無理なく接してみてください。
本人の状態変化と環境の変化に気がつく
うつの症状がで始めると本人や周りの環境にちょっとした変化が現れてきます。そのちょっとした変化にまずは一早く気がつくということが大切です。以下に気がつくべきポイントを挙げてみます。
- 表情が暗くなる、笑わなくなる
- 自宅にこもりがちになる
- 夜眠れていない
- 食事の摂取量が減る
- 特に原因は不明な体調不良の訴えがある
- 家の中が散らかるようになった
このように、ご家族や周囲の方が日頃から本人宅を訪れたり、小まめな声かけを行うことによって、うつ症状の始まりを見逃さないということが大切です。
適切な声かけ・対応
老人性うつの方にとって、周囲の接し方や声かけも重要な治療の一つとなります。大切なことは、ご本人の訴えを否定せず、共感してあげること。そして、「がんばれ」などと過度な励ましをしないことです。
初期の認知症やうつ病を疑った場合、早期受診早期治療が望ましいですが、ご家族が精神科などの専門病院に受診を促すことも難しい事象も少なくはありません。そういった時は、まずはご本人の今のお気持ちをゆっくりと聞いてあげること。そして、どうしたらよいか一緒に考えてあげることから始めてみましょう。そして、専門の医師に相談すれば、回復に向けてより良い方法を探すことができることを伝えてあげてください。
老人性うつへのおすすめの対処法5つ
老人性うつになった場合、薬物療法などに合わせて周囲の人の手助けの元でできることもたくさんあります。今回の記事では、特におすすめの対処法5つをご紹介していきます。
日常に適度な運動を取り入れる
適度な運動を行うと身体だけでなく頭もリフレッシュすることができます。さらに、日光を浴びると、セロトニンという神経伝達物質がより分泌されると言われています。セロトニンは、ストレスに対して効能があると言われ、精神の安定や安心感を生むとされているため、うつ病には効果的なのです。
また、老人性うつ特有で、身体が思うように動かなくなることでの喪失感なども発症の原因として挙げられています。高齢になっても、体力や筋力を維持し、自分でできることを維持するということもうつ病の対策としてとても重要なことです。
趣味活動を行う
自分の好きなことに没頭できる時間を作ったり、ストレス発散できる趣味を見つけるということも大切です。一人で集中して行うものや、他者との交流ができるものなど、ご本人の性格や好みに合わせて見つけてみるとよいでしょう。ただし、一つ注意すべきことは、昔から得意としているもので、最近の能力では上手くできないものを提供してしまうと、逆に否定的な感情を生んでしまう可能性があるため、提供するものは慎重に考える必要があります。
初めて行うものであれば、難易度を下げて気軽に楽しめるものを。元々行っていた趣味であれば、ご本人の自尊心を尊重できるよう難易度を下げ過ぎずに方法や環境を調整しながら取り入れてあげるとよいでしょう。
地域行事に参加する
少しずつ外に出る、他者と関わるということはうつ病患者の方にとって大切です。そのことがご本人のストレスになっていないかという確認は必要ではありますが、適度に生活の中で日課を用意してあげることも気分転換となります。
また、地域に気の許せる友人を作ることで、困ったことや心配なことを人に話す機会になったり、ご本人の変化に周囲の人が気づきやすくなります。家族だけでなく、頼れる地域のコミュニティを作っていくこともうつ病の対策としてとても重要です。
バランスの良い食事を摂る
高齢の一人暮らしの場合は特に、栄養の偏りや食事を摂らなくなるなどの心配があります。うつ病になると食欲が低下したり、自分で食事を作る気力がなくなり、より身体と心の不調を助長することにも繋がります。
ビタミンや必須アミノ酸、マグネシウムなどの栄養素をバランスよく摂取していくことが必要です。また、タンパク質をしっかりと摂り、体力や筋力を維持していくことも高齢者にとって大切です。
全てをご本人やご家族が用意しようとしなくてもよいので、宅配サービスなどを上手く活用しながら、食事量やバランスの良い食事を維持していきましょう。
福祉ネイルもおすすめ
ネイルサロンに行くことが困難な高齢者や障がいを持った方を対象に、施設や自宅に訪問してネイルサービスを提供する福祉ネイルというものが全国で展開されています。ネイルの技術と障がい者・高齢者について学んだ福祉ネイリストが訪問し、手と手の触れ合いと会話を大切にネイルカラーリングやハンドトリートメントなどの施術を行います。
老人性うつの方にとって、孤独感というのは大きな課題です。1対1でゆっくりと会話をしながら、爪をきれいに彩ることで、気持ちも前向きにし、癒しの時間を提供します。爪を彩った高齢者の方の中には、他者との交流が増えたり、外出したくなるなどの気持ちの変化が多く報告されています。
1,600名を超える福祉ネイリストの卒業生たちが全国各地におりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
一般社団法人 日本保健福祉ネイリスト協会のHPはこちら
まとめ
高齢者にとって、認知症とうつは今や誰にでもなり得るものとなっています。特に高齢者世代の孤立化が進んできている現代で、老人性うつは周囲が気がつかずに深刻化し、自殺まで追い込まれてしまう可能性を秘めています。
老人性うつに対して、一人ひとりが認識を持ち、地域全体で見守る・支える世の中になることを願っております。ご本人も、ご家族も、まずは一人で抱えこまずに専門職や周囲の方々に相談し、できることから少しずつ始めてみてください。
【参照サイト】
厚生労働省 平成30年版 厚生労働白書ー障害や病気などと向き合い、全ての人が活躍できる社会にー図表1-2-9こころの病気の患者数の状況
厚生労働省 後期高齢者層における自殺者をめぐる状況