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福祉ネイルに関する研究発表を日本プライマリ・ケア連合学会学術大会にて発表!

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2020年7月23日~8月31日までの期間で開催された第11回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会にて、日本保健福祉ネイリスト協会名取校所属の浅田ともみさん、木嶋沙綾香さん、そして名取校講師である小磯麻有さんが『回復期リハビリテーション病棟における福祉ネイルの気分に与える影響の検討』として研究発表をされました。

プライマリ・ケア連合学術大会とは、2019年2月末時点で医師、歯科医師、薬剤師、コメディカル(その他の医療従事者)、学生など11,890名の会員数を集める歴史、実績ある学会です。

今回は、どんな内容の研究を行ったのか、研究や発表に至った経緯などについて、研究チームを代表して名取校講師の小磯麻有さんにインタビューさせていただきました。

インタビュイー

小磯 麻有(こいそ まゆ)

会社員からネイリストに転職。8年間ネイリストとして働いた後、2015年から日本保健福祉ネイリスト協会名取校の認定講師として活動を開始。名取校からは2020年9月現在で62名の福祉ネイリストを輩出しながら、ご自身も福祉ネイリストとして施設訪問を実施している。

インタビュアー

髙橋 慶香(たかはし ちか)

作業療法士として働いていたが、2016年福祉ネイリストの資格を取得。現在名取校に所属しながら、福祉ネイリスト件ライターとして活動している。

 

研究の内容について

まず、今回行った研究はどんな内容の研究だったのでしょうか?

今回は『回復期リハビリテーション病棟における福祉ネイルの気分に与える影響の検討』という内容で、入院しながらリハビリテーションを行っている患者さんに対して福祉ネイルを行うことによって、どのような気分変化がみられるかということを研究しました。今回の研究メンバーは、福祉ネイリストである私、浅田さん、木嶋さんだけではなく、病院の医師や看護師、ソーシャルワーカーなど、多職種が関わり、合計9名のメンバーにて構成。実施場所は、浅田さんが看護師として勤務されている宮城県の公立黒川病院で実施しました。

黒川病院にて実際に福祉ネイルを行う木嶋沙綾香さん(左)と浅田ともみさん(右)

研究するに至った経緯

なぜ研究をしようと思ったのですか?

私たち福祉ネイリストは、実際に活動している中で、常日頃から福祉ネイルには人を笑顔にすることができ、前向きな気持ちにさせてくれる力があると実感しています。しかしながら、それをしっかりと数値や結果で証明できる根拠がありませんでした。私たちの所属している日本保健福祉ネイリスト協会でも、数年前からそこに着目し、福祉ネイルが必要な根拠を示すために注力してきたと思います。今回研究を実施した私たち福祉ネイリスト3名は、「いつか病院の中にも福祉ネイルが当たり前に存在する世の中になれば」との願いがあります。その想いを実現するためには、この”根拠”というものが絶対必要であると感じていました。そんな中、毎年1回全国から選ばれた数名が、福祉ネイリストとしての日頃の活動や気づきを発表する日本保健福祉ネイリスト協会主催のアワードという場で、メンバーの浅田さんが2年連続でグランプリを受賞しました。その後、黒川病院内で報告会をする機会を頂き、日頃の病院での福祉ネイルの活動やこの発表を見た医師たちが私たちの想いに共感してくれ、研究を後押ししてくれたのがきっかけです。

いつ頃から研究を開始したのですか?

実際に患者さんへの介入を開始したのは2019年4月からです。しかし、実際に研究すると決断したのは2018年12月のことで、介入開始までの期間、幾度となく話し合いを重ね、念入りに準備と検討を行ってきました。2018年12月に研究すると決断するまでにも、約2年間、浅田さんを中心として、我々福祉ネイリストが病院に定期訪問させていただき、福祉ネイルを途絶えることなく提供させて頂いておりました。少しずつ病院内でも福祉ネイルの存在や必要性を理解してくださり、スタッフの皆様が快く協力してくださったおかげで今回の研究を実施することができたと思っています。

実際に研究を行ってみて大変だったこと、苦労されたことはありましたか?

私たちは、元々研究をしたことがなかったので、何もかもがわからない状態でした。研究の段取り、用語、データ解析など、未だに慣れない用語も多く、研究結果をまとめるまで何度も何度も理解できるまで質問しながら勉強会を行いました。また、今回の研究は私たちとしても、病院・患者様に対しても初めての試みであったため、患者様や病院スタッフに同意を得るまでが大変でした。患者様やご家族への同意書作成や院内の倫理委員会で承諾を得たり、研究結果を正確に得るために、細かな研究計画書やどう声かけをするかのシナリオを作成したりもしました。

研究を実施するにあたって、「やりたくない」などといった反対意見はありませんでしたか?

研究の同意書に同意いただく中で、最初は気持ちが進まないと思う方もいらっしゃったかもしれません。しかし、そんな方にも福祉ネイルを体験し、楽しいと感じ、喜んでいただけたらいいな。そんな気持ちで最大限私たちも関わらせていただきました。患者様を取り囲む医師や看護師、現場スタッフの方にもご協力いただき、とても良い雰囲気で研究を実施できたと思っています。

では、研究を行ってよかったところやわかったことは何ですか?

今回の介入は研究という名目で福祉ネイルを提供させていただきましたが、実際に行うと、ご本人やご家族が想像以上に喜んでくださったんです。私たちにとっても、研究を一つのきっかけとして、いろんな方に福祉ネイルを気軽に知って頂ける良い機会になったと思っています。

また、研究の結果が出たというところがやはり嬉しかったです。もし私たちが思い描いていた研究結果が出なかったとしても、それもある意味結果であるという覚悟もありましたが、今回は福祉ネイルを行うことで、入院生活の中に活力が増え、緊張や不安が軽減するといった良い結果を明確に証明することができました。

福祉ネイルを行って笑顔になる患者様

 

 

発表する場が日本プライマリ・ケア連合学会学術大会だった理由

研究を発表するに至った経緯は?なぜ最初の発表が日本プライマリ・ケア連合学会学術大会だったのでしょうか?

今回の研究は、私たち福祉ネイリストだけでは決して成し遂げられなかったものだと思っています。黒川病院の医師たちの協力のもと、病院で研究を実施させて頂いた背景から、発表するのはまず医療系の学会に出そうと考えておりました。また、今回研究発表をさせていただいた学会の『プライマリ・ケア』とは、「身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療」という意味合いがあります。この想いに私たち福祉ネイルの活動は重なるものがあり、医師や看護師、様々な職種の方々にも福祉ネイルを知って頂ける機会として、こちらの学会で発表させていただきました。

 

研究発表を行って得られたこと

研究発表をして感じたことや得られたことはありましたか?

今回福祉ネイルに関する研究を応募し、採択された後に、学会のメディカルスタッフ部門の学術大会長候補に選出していただきました。私たちの研究はまだまだ始まったばかりで、他の研究の規模も大きい中、選出されたことにとても驚き、それだけ注目をしていただけているという事にとても有り難い気持ちと嬉しさを感じました。実際に研究や発表を行ったことで、それだけでも福祉ネイルの存在価値が上がったと肌で感じています。私たちの活動はこれからです。他の研究も拝見させて頂いたことで、より福祉ネイルを必要な方へ届けられるように、一層研究の分野も頑張っていきたいと気持ちが引き締まりました。

 

福祉ネイルの伝えたいこと

福祉ネイルについて改めて伝えたいことはなんですか?

爪をキレイに彩るというのは、心躍ることで、人を喜ばせることができます。美しさや技術を提供するネイルサロンも意味のあるものだと思いますが、福祉ネイルは、見える喜びだけではない、見えないところにも喜びを与えることができるツールだと思っています。ネイルを行っている間のスキンシップや声かけ、関わり合いの中で生まれるもの、さらには、別れた後にも交わされるスタッフやご家族との会話、その先へと続く反応や変化を私たち福祉ネイリストはずっと見守っています。

今回の研究中でも、ベッドに寝たきりや会話が難しいと思われていた方でも、福祉ネイリストが一人一人にしっかりと向き合い、関わりをもつことで、「この方はこんなにお話をしてくれる方だったんだ」や「難しい検査もしっかり行えたね」と看護師やリハビリスタッフの方々にとっても新しい発見がありました。一人一人に対して手を取り、しっかりと向き合うことができることも福祉ネイルの強味です。

ベッドに横になっている患者様にネイルを施術する木嶋さん

ベッドサイドでネイルを施術する小磯さん

 

今後の取り組みや挑戦について

患者様の状態に合わせて、場所や環境設定を変えてネイルを行います

今後の取り組みや次なる挑戦はありますか?

私たちの研究はこれで終わりではありません。データ数を増やし、より福祉ネイルの効果を明確化すること。さらには、研究のデータ解析やまとめる方法を変えながら、様々な分野の学会で発表を行うことです。また、研究のことを伝える機会や場を作っていけたらとも考えています。次の機会は2020年11月に開催される第51回日本看護学会で発表させて頂くことが決まっています。私たちは、患者さんを支える新しいカタチとして、医療福祉の多職種連携の中に福祉ネイリストが一員として加わることができたらと望んでいます。私たちができるネイルケア※を必要とされている方に当たり前に福祉ネイルが提供できる世の中になるまで、伝える努力を続けていきます。

※ネイルケアとはネイル用語で使用している甘皮処理等のケアの意味ではなく、医療界でいわれている「ケア=心理的なサポート」を意味し、表現しています。

まとめ

今回の研究は、数値や結果を集めることが目的ではなく、研究に取り組んだ福祉ネイリスト3名の「福祉ネイルをもっとたくさんの人に知ってほしい。必要な方に当たり前に提供できる世の中になってほしい」という強い想いがあったからこそ行われたものです。今回インタビューをさせていただいた小磯さんは、「今回、多職種の方々が研究に協力してくださったこと、そして何より、"誰かのために”というブレない志を持った福祉ネイリストの仲間と一緒に研究を行えたことが本当によかったと仰っていました。彼女たちのような想いや志を持った福祉ネイリストが全国各地にいます。福祉ネイリストの可能性は大きい。福祉ネイリストは主婦の方やネイリスト、医療職、どんな方でも挑戦できる資格です。それぞれが経験してきたことを活かしながら同じ志を持った福祉ネイリストが増えていくことを願っています。そして、このコロナ禍において、訪問や接触の規制がある中、私たちは今までのように福祉ネイルが提供できないもどかしさを感じています。福祉ネイルを途切れることなく提供できるような世の中になるためにも、医療福祉の現場スタッフのみなさまにこの福祉ネイリストの資格をぜひ知っていただきたいと切に願っております。

今後の福祉ネイリストの活動に加え、彼女たちの研究に関してもぜひ活躍をご期待ください。

 

インタビュー写真:新田真由子 撮影

髙橋 慶香(たかはし ちか)

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おじいちゃんおばあちゃんが大好きな作業療法士×福祉ネイリスト。その他、医療福祉系を中心としたWEBライターとしても活動中。モットーは「心が動けば体も動く」。

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