「温かい時間と指先を届けたい」看護師×福祉ネイリストによる緩和ケア病棟でのネイルの日
高齢者や病気・障がいをお持ちの方など、ネイルサロンに来ることが難しい方の元へ出張訪問し、ネイルサービスを行う福祉ネイリストという職業。一般社団法人 日本保健福祉ネイリスト協会(以下、「当協会」という。)では、2024年3月時点で全国に2,200名を超える福祉ネイリストたちが誕生しています。
そんな福祉ネイリストという職業は、働き方やこれまでの経歴など多種多様です。今回は、看護師として働きながら、福祉ネイリストとしても活動し、2024年5月12日に行われた第8回福祉ネイリストアワードで見事グランプリを受賞された石川理香子さんに、福祉ネイリストの活動と想いを伺いました。
目次
看護師としての経験を活かして、緩和ケア病棟で福祉ネイルを提供。
Q1.石川さんの現在の働き方についてお聞かせください。
看護師になって14年目なのですが、現在は訪問看護ステーションにて正社員として働いています。こちらでは、シフト制の交代で勤務しているため、休みが不定期です。月に9~10日休暇があるので、私の場合は、第2・4木曜日は固定でお休みをいただくようにしていて、月に2回ほど福祉ネイリストの活動を行っています。
職場の皆さんも福祉ネイリストの活動を理解してくださり、副業として行っています。
月に1回は、病院の緩和ケア病棟へ福祉ネイリストとして定期訪問に伺っています。その他は、イベント出店や地域のがんサロンに参加して、広報活動なども行っています。
Q2.なぜ病院の緩和ケア病棟で福祉ネイルの活動をすることになったのでしょうか?
福祉ネイリストの資格を取得後、当協会が主催している福祉ネイリスト向けの営業勉強会に参加して、さまざまな施設や病院等に営業を行いました。その際に、『筆まめ』といって、一通一通お手紙を書かせていただいたのです。
私は、現在の訪問看護ステーションに勤務する前に、病院で働いていたのですが、そちらにもお手紙をお送りさせていただきました。こちらの病院の理念や地域貢献の活動は、以前より感銘を受けていましたし、退職後、地域で働く身になってみて改めて、このような病院があることを心強く感じていました。実際に説明に伺った際に、副理事長が履歴書を探し出してくださって、福祉ネイルに対する想いをじっくり聞いてくださいました。
そして、勤務していた病院と同じ系列の別の病院で緩和ケア病棟があるのですが、そこでは、アロマトリートメントの日などもあり、患者さんに対して癒しのサービスを積極的に取り入れていたため、新しいチャレンジとして、福祉ネイルを導入してくださることになりました。
Q3.そんな石川さんが福祉ネイリストになろうと思ったきっかけは?
2022年度の1年間は病院の回復期病棟で勤務していました。そこでは、リハビリを頑張る患者さんのサポートをしていたのですが、作業療法士の方がネイルをしてあげていたり、足の爪が巻き爪で痛くて歩けない患者さんに看護師が爪のケアをしてあげる場面を目にしました。
そこで、看護師として少しでも痛みを取ってあげたいと思い、巻き爪のケアについて学び始めました。それから爪に興味を持つようになり、Instagramで福祉ネイリストを知り、資格を取得したのです。
これまで、看護師として働いてきて、患者さんに喜んでいただくことが、なんだか一瞬の出来事のような気がしていて。「体を拭いてキレイになってさっぱりした」とか、「採血が上手だった」かもしれないですし、「時間を一緒に過ごしてくれて嬉しかった」のような。
でも、福祉ネイリストになり、先月爪に描いたアートが今月まだ残っていて、「今日は一番乗りにやってもらいたい」と言って待っててくださる方を見た時、自分の持っている技術で喜んでいただけて、それが且つずっと続いているような気がして。福祉ネイルってすごいなと思いましたし、嬉しかったです。
手と手で触れ合い、やり場のない気持ちさえも、ただ温かく受け止める。大切な福祉ネイルの時間。
Q4.実際に緩和ケア病棟で福祉ネイルを行っていて、印象に残っていることはありますか?
緩和ケア病棟で福祉ネイルを施術させていただく方は、やはり痛みを抱えていたり、残りの命が限られている方が多いです。そんな方に接する時、看護師として関わっていたら、どうしても時間に追われていて、ゆっくりお話を聞いてあげるのが難しいかもしれません。でも、福祉ネイリストだからこそ、手と手を触れ合いながら、目を見てもいいような、見なくてもいいような。そんな距離感と心地良い雰囲気で、ポロっと辛い気持ちを話してくれることがあります。
特に印象に残っている方としては、始めにお部屋を訪れた際に、「もうしんどいの、来ないで」と張り詰めた空気で言われたことがありました。その時は、一度退席をして落ち着いた時に福祉ネイルを施術させていただいたのですが。その時に、「私はここに来てからずっと天井を見てる。なんでか勝手に涙が出る。ほんっと悔しい」と胸の内を話してくれたことがありました。
痛みを取ってあげることはできないけれど、吐き出したい想いを受け取ってあげること、手を労わりながら寄り添ってあげること、辛い入院生活の中で一時でも「今日は指先を見て過ごそう」と、喜んでいただけることはできているのかなと思っています。
Q5.そんな時、看護師という強みを感じられることもあるのではないでしょうか?
そうですね。やはり、沈黙が怖くないというのはあるかもしれません。痛みや病と戦っている複雑な心境が故に、自分は受け入れてもらえるかという緊張感はありますが、これまでいろんな患者さんに接してきて、沈黙を静かに待てるということは看護師で培ったものかもしれません。
また、看護師は患者さんの体に触れることが多い職業なので、自然と距離感を詰められたり、緩和ケア病棟では、ベッドに横になった状態でネイル施術をすることもあるので、その場合の安全確保という視点も看護師としての経験が活かせていると思います。
訪問させていただいている病院の方からも、導入する際に、「外部の人だけど、看護師だから安心だよ」ということもよく言っていただいていました。
日々の活動を多くの人に伝え、恩を返していきたい。
Q6.石川さんは、2024年5月12日に行われた第8回福祉ネイリストアワードで見事グランプリを受賞されましたが、なぜエントリーしようと思ったのでしょうか?
私が福祉ネイリストの資格を取得した認定校の講師に「アワードに出てみない?」とお声かけしていただきました。
私は、現在勤務している訪問看護ステーションで『聞き書き』について学んでいて、緩和ケア病棟で福祉ネイルをさせていただく時も、患者さんの発した言葉をありのまま、一言だけでも記録しています。実際の施術写真とその言葉を添えて、緩和ケア病棟でのネイルの実際をアワードの舞台で発表しようと思いました。
Q7.グランプリを受賞されて反響はいかがでしたか?
アワードでグランプリを受賞できたことを、まずは日頃お世話になっている緩和ケア病棟のスタッフの皆さんやボランティアさん、福祉ネイル導入を決めてくださった病院の副理事長にお伝えして、大変喜んでくださいました。少し恩返しができたのかなと思っています。
また、活動を応援してくれている職場の皆さんにも、発表動画を見ていただいて、「素敵な仕事だね」とお褒めの言葉をいただき、私自身も福祉ネイリストとして活動していることが改めて誇らしくなりました。
相手に温かい時間と指先を届けるために。これからも仲間とともに挑戦し続けたい。
Q8.石川さんのこれからの目標はございますか?
アワードで発表したことで、日々の活動を誰かに伝えることの大事さを感じました。次は、当協会の研究集会での演題発表に挑戦して、自分の活動の効果を数値などのエビデンスとして残していければと思っています。7月より開始する勉強会に参加する予定です。
新しい挑戦と並行して、今行わせていただいている緩和ケア病棟でのネイルの日を大切に継続していきたいと思っています。続けていく中で、やはり患者さんからのニーズも多く、病院の方も前向きに福祉ネイリストを増やすことも検討してくださっています。何かあった時のバックアップ体制も含めて、今後、他の福祉ネイリストの方にも協力いただけるように形づくりをしたいです。
私はまだ、福祉ネイリストの資格を取得して2年目ですが、来年で協会設立10年を迎える大きな協会で、教科書も内容が充実しており、研究や卒業後の営業の勉強なども学べる機会があるところで学び、資格を取得できたことは本当によかったと思っています。
福祉ネイリストという資格は、ネイリストでなくても取得できますし、ポリッシュを塗ることが初めての方でもそこから教えてもらえる。そして、高齢者の方へのケア技法を実際に施術場面で活かせるように身につけられることは、すごく魅力的な職業だと思います。
看護師など医療職の方が、習いに行ってもすごく勉強になり、関連付けて自分の強みとしていけることがたくさんあると思うので、ぜひ福祉ネイリストの仲間を増やしていきたいです。
そして、私にはずっと大切にしている想いがあります。「私が関わることで、相手に温かい時間と指先を届けたい」ということです。指先が温まるとリラックスしたり、キレイだなと幸せを感じてもらって、ぬくもりを感じていただけるような活動をこれからもしていきたいと思います。
まとめ
福祉ネイリストの働き方が多種多様なだけでなく、福祉ネイルを必要としてくださる場所も年々多様化しています。高齢者施設や障がい者施設、地域サロンや個人のお宅、イベント出店など。
福祉ネイリストの中には、ネイリストはもちろん、石川さんのように看護師の方や介護士、理学・作業療法士、美容師や主婦の方など、様々な背景を持っていらっしゃる方がいます。
それぞれの強みを活かして、目の前の方に癒し・元気・希望を届けているのです。
今回インタビューさせていただいた石川さんが行っている緩和ケア病棟での取り組みは、誰にでもできることではないかもしれません。しかし、全国各地の2,200名を超える福祉ネイリストたちが、それぞれ持っている強みを活かし、医療や福祉の場に美容が当たり前になる世の中を目指して日々活動しています。
美容サービスを通じて生活に彩りを放ち、万人が輝きある人生を送れるように。
福祉ネイリストになりたい!という方はこちらをご覧ください。
■石川 理香子さんのInstagramはこちら