キャリアウーマンから福祉ネイリストへ。「こんなにも幸せな仕事はない」
高齢者や病気・障がいをお持ちの方など、ネイルサロンに来ることが難しい方の元へ出張訪問し、ネイルサービスを行う福祉ネイリストという職業。一般社団法人 日本保健福祉ネイリスト協会(以下、「当協会」という。)では、2024年3月時点で全国に2,200名を超える福祉ネイリストたちが誕生しています。
そんな福祉ネイリストという職業は、働き方やこれまでの経歴など多種多様です。今回は、一般企業の営業職という全くの異業種から福祉ネイリストになり、福祉ネイリストの認定校講師や当協会の事務局も担っている石井智子さんに、福祉ネイリストとしての活動と想いを伺いました。
目次
一般企業の営業職から一転。脱サラしてネイリストの道へ。
Q1.石井さんのこれまでの経歴を教えていただけますでしょうか?
大学を卒業後、一般企業に就職し、海外営業の仕事をしていました。私自身、ネイルをすることが好きで。このまま営業職を続けていたら後悔すると思い、ネイリストの道へ進むか迷っていました。そんな時、夫に「人生一度きりなんだから頑張ってみたら?」と背中を押してもらい、脱サラをして学生に戻り、ネイリストになるための勉強をして、25歳でネイリストになりました。
ネイリストになってからは、東京都内のネイルサロンに勤務し、最先端の流行ネイルをひたすら施術していました。その後、結婚を機に職場を変えて、美容室の一角でネイルブースを任せてもらっていました。3人の子どもを出産し、その間は細々と自宅サロンでの受け入れを行っていましたが、しばらくは子育てに専念していました。
Q2.そこから福祉ネイリストになったのはなぜですか?
美容室の一角でネイルブースを担当していた時、初めて高齢の方にネイルをさせていただきました。その時、おばあちゃまがものすごく喜んでくださって。もちろん、若い方にネイルでキレイになっていただくのも嬉しかったですが、そのおばあちゃまの喜んでくださる姿が衝撃的で。今までネイリストとしては味わったことのない喜びというか達成感のようなものを味わいました。
そのことがきっかけで、将来どのようなネイリストに自分はなりたいかを考えるようになりました。そして、SNSで福祉ネイリストを見つけて、一番下の子が幼稚園に入るタイミングで福祉ネイリストの資格を取得しようと決めていました。
Q3.現在のお仕事状況を教えてください。
2022年3月に福祉ネイリストの資格を取得し、その後地元愛知県一宮市に家族でUターンした後、2023年10月に自宅サロン兼福祉ネイリスト認定校(愛知県一宮校)を開校しました。
2023年6月から当協会の理事になり、現在は事務局も担当させていただいています。
福祉ネイリストになり、当協会が主催している第1期目の営業勉強会に参加しました。そこで全国各地に切磋琢磨できる仲間ができましたし、それから福祉ネイリストの活動が軌道に乗り始めたと思っています。現在は、31施設と契約させていただいていて、ほぼ毎日施設訪問に伺っています。毎月200名近い方に施術をし、昨年を振り返った時に、年間で約2,000名の方に福祉ネイルを提供させていただいていたのだなと思うと、自分でも感慨深かったです。
これが全国でもっと広がると、笑顔の連鎖が広がると思いますし、私は福祉ネイリストにとても可能性を感じています。だからこそ、福祉ネイリストが増え、みんなが活躍できる場を作っていけたらとの想いで認定校や卒業後のフォローも行っています。
福祉ネイリストになって2年。今では、一般企業で営業の仕事をしていたときよりも多くの収入を得ることができていますし、充実した毎日です。
「ありがとう」と言い合える自慢の仕事。私の職業は“福祉ネイリスト”。
Q4.石井さんが福祉ネイリストとしてこれまで活動をされてきて、心に残っているエピソードを教えてください。
現在訪問させていただいている施設は、高齢者施設が約9割を占めています。その中で、もう1年以上定期訪問させていただいているデイサービスがあるのですが。そちらに通われている高齢女性の方が、福祉ネイルを毎月ものすごく心待ちにしてくださっていて。「あなたと会えるのが生きがいだわ」と言ってくださったんです。その時、私もつい涙が出てしまって。普通に生きていて(仕事をしていて)、こんなことを言っていただけることってあるだろうかと思ってしまいました。
また、別の利用者様で、先日怪我をされてしまった方がいました。大事に至らなかったのでよかったですが、その方が、怪我をされた瞬間に「明日ネイルの日だからデイサービスへ行けなくなったらどうしよう」と思ったと後日お話してくれました。それだけ生きている中で大事なものの一つに私の提供する福祉ネイルの時間があるのだと思い、とても嬉しくなりました。
私たち福祉ネイリストは、高齢の方や障がいをお持ちの方にネイルサービスを通じて元気を与えると思っていたのですが、実は逆に私たちがもらっているものの方が多いのだと思います。「ありがとう」「ありがとう」と言い合える本当に素敵な仕事だなと。目の前の方のそういった笑顔や喜んでくださる姿が、明日への原動力になっていると実感しています。
Q5.石井さんにとって、福祉ネイリストの魅力は何だと思いますか?
自分がこれからもネイリストであろうとした時に、年を重ねていくとどうしても細かな作業が難しくなっていく可能性は大きいと思います。そんな懸念を抱えてネイリストを辞めてしまう方もいるのではないでしょうか。
しかし、福祉ネイリストの場合、もちろんネイルの技術も大事ですが、どれだけ良い接遇やコミュニケーションができるか、ということがとても大切になってきます。それを考えた時に、福祉ネイリストとしてネイリストを続けていくと、衰えるばかりか、むしろ続ければ続けるほど技術が増していくと感じています。
実際に、私の運営している福祉ネイリスト認定校には、60歳の卒業生がいるのですが、やはりとても利用者様への接し方が上手なのです。きっと、人生の深みであったり、その方の今までの経験が現場での施術に生きているのだなと思いました。一緒に同じ志を持った仲間として、そんな60歳の方と同じチームで仕事ができるということは、他の職業にはなかなかない面白さではないでしょうか。
いくつになっても始められる、年を重ねて経験を積めば積むだけ深みのある施術ができる、それが福祉ネイリストの魅力だと思います。
だから私は、ネイリストとしての資格も持っていますが、今は、「職業“福祉ネイリスト”」と胸を張って言いたいです。
Q6.福祉ネイリストの認定校の中でも、愛知県一宮校の強みを教えてください。
やはり、訪問させていただいている施設が多いので、生徒さんには実際の現場経験を多く積んでいただけるということが一番の強みだと思っています。
本来のカリキュラムであれば、実際の現場に訪問するのは、卒業試験に合格してから行う実地研修のみです。しかし、愛知県一宮校では、もちろん実際に利用者様に施術を行うのは、福祉ネイリストの資格を取得してからですが、希望する生徒さんには、実際の施術場面や営業場面を見ていただいています。
私は、生徒さん全員に、「訪問する際は、必ずお一人お一人に一つの小さなプチ感動を残してくるように」と伝えています。それを生徒さん自身が現場で実践できるようになるために、卒業後にも営業や接遇、技術面を磨くことのできるフォロー体制をつくっています。
生涯ネイリストでありたい。夢は、「子どものなりたい職業ランキングトップ20に福祉ネイリストが入ること」。
Q7.石井さんは昨年行われた当協会主催の第4回研究集会で2演題の研究発表をされ、見事学会賞も受賞されました。なぜ、研究にも挑戦しようと思われたのでしょうか?
私の福祉ネイリストとしての屋号は、『CuddleLab(カドルラボ)』と言います。Cuddleは英語で“寄り添う”という意味。私は、この福祉ネイルを通じて、“寄り添う”ということをいつまでも探究していきたいと思っています。
当協会が行っている研究集会の抄録集を、営業の際にお見せすると、皆さん本当に目の色が変わるんですよね。そして私自身も、何か役に立てるような演題発表がしたいと思いました。
私が福祉ネイリストの資格を取得した時はコロナ禍で、全国の福祉ネイリストは活動が制限されていました。そんな時に、私自身が育児期間中、ネイルにすごく助けられて、自分を持ち上げて育児を頑張ることができた経験を思い出し、対象が高齢者の方だけでなく、福祉ネイリストとしての活動の幅がより広がったらと思い、子育て中の母親への福祉ネイル介入と、自閉症を有した水泳選手の方への深爪改善に関する研究の2演題を発表させていただきました。
有難いことに、学会賞を受賞することができ、お世話になっている施設の方には自分事のように喜んでいただけました。そして、「一緒にいつか研究ができるといいね」というお言葉もいただき、自分にとっても、とても有意義なものになりました。
Q8.石井さんの今後の目標を教えてください。
私は生涯ネイリストとして生きていきたいと思っていました。そのためには、どう生きていけばよいのかずっと考えていて、その答えが福祉ネイリストだと思っています。
将来私も老人ホームに入居しながら、みんなにネイルをしてあげるのもいいな、なんて思い描いています。
そして、福祉ネイリストの認定校を始めたときから言い続けている夢が私にはあります。
「子どものなりたい職業ランキングトップ20に福祉ネイリストが入ること」
こんなにも利用者様に感動して喜んでもらえる仕事は、私にとっても喜びであって、素晴らしい仕事だと思うのです。この職業が、もっと広がることで、笑顔や幸せの連鎖は大きくなっていくと確信しています。
この福祉ネイリストという仕事がしっかりと職業化し、活躍できる人を増やすこと。私自身がロールモデルとなり、また、認定校や協会事務局として、現場と支える側の両輪で頑張っていきたいと思っています。
まとめ
福祉ネイリスト、認定校講師、協会事務局、そして3人の子どもを育てる母、沢山の役割と顔を持った石井さん。その働きは、きっと多忙であると推測できます。
インタビューの最後に、「なぜそんなに福祉ネイリストが好きなのですか?」と石井さんに聞きました。
すると、
「私も不思議なくらいですが、天職なのでしょうね。すごく疲れていても、施設訪問に伺って福祉ネイルを提供すると、私自身が元気になって帰ってくる。仕事だけど、癒される、不思議な感覚で面白いです。」
と答えてくれました。
そんな輝いている姿を見ているからこそ、「ママ頑張ってるね」「人生一度きりなんだから、やりたいことに挑戦しな」とご家族も支えてくれているのだと思います。
いくつになっても、どんな経歴をもっていても挑戦できる幸せな仕事、福祉ネイリスト。
全国でもっと福祉ネイリストが増えていくことを願っています。
福祉ネイリストになりたい!という方はこちらをご覧ください。
石井智子さんと繋がりたい、という方は、ぜひ石井さんのInstagramをご覧ください。