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看護師と2足のわらじを履く福祉ネイリスト~福祉ネイルと医療を繋ぐ挑戦~

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日本保健福祉ネイリスト協会では、2022年7月時点で、全国に1400名を超える福祉ネイリストを輩出しています。そして今回は、看護師として病院で勤務しながら、福祉ネイリストとして訪問施術や研究にも取り組んでいる佐久間ともみさんにインタビューさせていただきました。

 

プロフィール

佐久間 ともみ(さくま ともみ)

宮城県在住。看護師として勤務している傍ら、2016年に福祉ネイリスト、医療フットケアスペシャリストの資格を取得。日本保健福祉ネイリスト協会宮城県名取校所属。現在は公立黒川病院急性期病棟で看護師として働きながら、院内外で福祉ネイリストとしても活動している。福祉ネイルの施術訪問の他にも福祉ネイリストアワードでの発表や研究にも取り組み、2017年・2018年と2年連続福祉ネイリストアワードでグランプリを獲得。

 

看護師が福祉ネイリストの資格を取得しようと思ったきっかけ

佐久間さんは看護師として働いていらっしゃるんですよね?福祉ネイリストの資格を取ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

2011年から看護師として働いていています。2014年の夏休みに人生で初めてネイルサロンへ行き、施術をしてもらいました。当時、私は爪の悩みを抱えていたのですが、十数年来の悩みを一瞬で解決し、自分の爪とは思えないほどキレイになったことに衝撃を受けました。さらに、ずっと敬遠していたネイルサロンがこんなに癒しの空間だったとは!と感動しました。そこで初めて「ネイリストの仕事って素晴らしいな」と思ったのです。

爪に悩みを持った人に、もっと医療的なネイルケアを広められたらと思い、ジェルネイルのスクールに通い始めました。

ジェルスクールに通われたのですね?そこから福祉ネイルとの出逢いは?

はい。そんな中、2016年に看護師を辞めてネイリストになろう!と思った時期がありまして。休暇を利用してネイルサロンにインターンへ行きました。自分の興味のあった巻き爪矯正や深爪矯正に力を入れているネイルサロンに行って、すごく良い経験をしてきました。でも、やはりそのネイルサロンに来るお客様は、元気でネイルサロンにご自分で来られる方だったんですよね。インターンを終えて病院勤務に戻った時に、ネイルサロンで見たお客様層と病院で見る患者さん層が違い過ぎて、それに気がついた時に「私がやりたいのは、やっぱり病気と闘っていたり、ベッド上で頑張っている人、ネイルサロンに通えない人たちにネイルをしたい!」と思ったんです。

自分がこのまま看護師として働いていて良いのか、ネイリストになりたいのか、迷っていた時に、福祉ネイリストという資格があることを知り、資格取得を決意しました。ちょうど同じ時期に、フットケアの資格も取得し、病院で施術できるネイリストになりたいと思いました。

 

看護師と福祉ネイリストの両立とは

佐久間さんは、どちらの病院に勤務されているのですか?

宮城県内にある公立黒川病院というところで正看護師として働き、現在は急性期病棟を担当しています。

現在、新型コロナウイルス感染症の影響でお仕事はいかがですか?

直接新型コロナウイルス感染症の入院患者さんを受け入れているわけではないのですが、やはり病院全体として感染症対策は徹底して行われているので、通常よりはやることが多いですし、緊張感が高いですね。病院でも未だ全面的に面会が中止されている状況ですので、やはり患者さんが一番辛いと思います。

そうですよね。福祉ネイリストとしての活動もなかなか難しい状況ですね。

はい。今までは、基本的に回復期リハビリ病棟・地域包括ケア病棟で福祉ネイリストとしての活動を行ってきましたが、現状、積極的に実施するのは難しいですね。

ただ、そんな中でも個人でのご依頼をいただいた際は、主治医から了承を得た場合のみ、病室で感染症対策を行った上で実施することもあります。

新型コロナウイルス感染症流行以前は、看護師と福祉ネイリストをどのように両立させていたのですか?

看護師として正職員で勤務していまして、月に1~2日は福祉ネイリストとして病院や施設に施術に伺っていました。その他に、福祉ネイルのイベント出店をしたり。福祉ネイリストとして活動する際は、病院に兼業を許可してもらい有給休暇を利用しているので、その分の収入は、一個人として、私の手元に入るようになっています。

施設訪問の他にも、介護施設職員や社会福祉センターの利用者さんへ向けて、爪の健康講座を行うこともあります。

職場も福祉ネイリストの活動を理解してくださって、副業としての活動を後押ししてくれているのですね。

そうですね。本当に理解ある職場に感謝していますし、医師や現場スタッフの協力があって、福祉ネイルができています。実際に福祉ネイルを見てもらった上で、「もっと広がると良いね!」と応援してくださることが大きな原動力になっています。

 

病院内で福祉ネイルを実施

ご自分の働いている病院で福祉ネイルを始めたのはいつ頃からですか?

福祉ネイリストの資格を取得して間もない時期でした。2016年クリスマス時期にお試し会を実施して、2017年から毎月1回『福祉ネイルの日』として、入院患者さんに福祉ネイルを提供してきました。

病院でネイルを施術するということは、大変ではなかったですか?

ありがたいことに、病院の医師が福祉ネイルにとても共感してくださって、後押ししてくれました。福祉ネイルを病院で始めたいと思ったときに、看護学会の企業出展で福祉ネイルのブースを出しました。そこで、勤務している病院の職員に福祉ネイルを知ってもらい、多くの反響がありました。「福祉ネイルをこの病院でやりたいです!」と事務部長に伝えたところ、「じゃあ、企画書作って進めてみよう」という運びになって、始められる流れになりました。

ただ、やはり病院内の現場スタッフの反応は様々でしたね。「もし急変したらどうするの?」というご意見や「そもそも病院に入院する時には爪の色を見たり、血中の酸素濃度を測定するためにネイルは外すものなのに。」という声がありました。

そのため、まずは比較的病状の安定している回復期リハビリ病棟の患者さんに対して福祉ネイルを提供すること、特別な時間を届けるというメリットの説明、場合によっては1∼2本のアートのみの実施、主治医との連携など考えられるリスク管理はできる限りやりました。お試し会で喜んでくださる患者さんの顔を見たことが一番の決定打で、それからは現場スタッフの理解もあり、月一回『福祉ネイルの日』を実施できることになりました。

 

印象的な出来事とは

今まで病院内で福祉ネイリストとして活動してきて、印象に残っていることはありますか?

いつもうつむきがちな表情の患者さんが、ネイルを選んでいるキラキラした表情とか、施術後キレイになった爪をずっと嬉しそうに見ている姿とか、ご家族も一緒になって喜んでくださる姿を見るのは、毎回嬉しいですよね。

特に印象に残っているのは…。コロナ禍前の話ですが、20代前半の女性が下半身麻痺になって入院されて。自身の状況をあまり周りの友人とかに話していなかったようで、ご家族も含め面会も少なくて、全然部屋から出て来なかったんですよね。関わるスタッフとは多少話しますが、個室に一人籠りっきりで、他の患者さんとも全く話さなかったんです。そんな彼女が、『福祉ネイルの日』に始めて自分から病室より出てきてくれて。施術中口数は多くなかったですが、ネイルを塗って乾かしている時に、他の患者さんに「お姉ちゃん可愛いね」などと声をかけられていて、表情がゆるんで他の入院患者さんとのふれあいが生まれたことがとても印象的でした。社会に出ると言ったら大げさかもしれませんが、病気や障害を抱えても一歩外に踏み出すきっかけにネイルがなったのだなとすごく嬉しかったですね。

福祉ネイルを実施するまでは、病院で一人部屋に籠ったり、他の誰とも関わらないのは、入院中ですのである意味仕方がないことだと思っていました。でも、きっかけがあれば、他の人とのコミュニティも生まれますし、その関わりや表情を見て、他の人と関わることって入院中でも大事なことだと思うことができました。

また、福祉ネイリストとして、私自身病院で患者様にネイルを施術できてよかったと思えたことがありました。

2~3年ずっと関わらせていただいていた高齢の女性患者さんがいたのですが。その方に始めてネイルをしたのは、入院中でしたが車いすで移動し、ご自分で好きな色を選ぶことができた状態の頃でした。入退院を繰り返して、本当にもう最期という時に、急性期病棟に入院されて、ご家族から福祉ネイルのご依頼がありました。ご本人は意識も朦朧としていて、ネイルを見ることは難しかったのですが、私だけではなく、その場にいたご家族みんなで一緒に手を取って、ラストネイルをしたのです。最期でしたが、本当に温かい空気になって、そんな時に福祉ネイリストとしてその方の人生に一緒に関わらせていただけてありがたいなと思いました。

地域に密着した病院ですので、元気な時から最期の時まで見ている方が多くて、そうなるとやはりご家族とも顔なじみになるんですよね。病院で亡くなる方は、管に繋がれたり、最期の時を待つだけの方もいらっしゃるので、こうやって最期にご家族と一緒に良い時間を過ごしてもらえるためのツールにネイルがなったのは本当によかったです。

 

福祉ネイルの研究に挑戦

2019年に開催された研究集会・福祉ネイリストアワードのシンポジウムで登壇した佐久間さん(一番右)

福祉ネイリストとして、訪問施術以外の取り組みは何かされていますか?

はい。勤務している病院で2017年からずっと福祉ネイルを実施してきた中で、2018年から福祉ネイルの研究にも挑戦しています。

どのような研究なのでしょうか?

『回復期リハビリテーション病棟における福祉ネイルの気分に与える影響の検討』という研究テーマで、病院の医師や看護師、ソーシャルワーカー、そして私を含めた宮城県名取校所属の福祉ネイリスト3名で研究を始めました。

福祉ネイルの研究をしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

ずっと福祉ネイリストとして活動をしてきて、ネイルをするとみなさん笑顔や元気になりますし、リハビリや日々のモチベーションが上がり、表情が明るくなるのを目の当たりにしてきました。福祉ネイルは絶対良い影響を与えることができると確信しておりましたが、それがなぜ良いのか、何に良いのかということがわからなくて。ただ「笑顔になります」というのは伝えていくために弱いのではないかと考えていました。

そんな中、所属している日本保健福祉ネイリスト協会の福祉ネイリストアワードでグランプリを受賞させていただき、その報告会を病院内で実施する機会がありました。その報告内容を聞いた小児科医が、「福祉ネイルの活動はもっと広めるべきだ」と共感してくれたのです。その医師や回復期リハビリテーション病棟の医師、看護師たちとこれからどのように福祉ネイルを広めていったらよいのかと話し合ったところ、「医療の分野で福祉ネイルをやっていくのであれば、しっかりとしたエビデンスが必要だよ」と言われ、私たちも研究をする決意ができました。

実際に研究の結果は出たのでしょうか?

福祉ネイルの研究、データ解析を病院内で実施しました。その結果、ネイルケアは、回復期リハビリテーション病棟に入院中の患者さんの「緊張・不安を軽減」し、「活気・活力を増加」させることができるというエビデンスが得られました。
福祉ネイルは、入院中の患者さんの気分を前向きにし、リハビリテーションのモチベーション維持に有効と推測することができました。
この研究内容を昨年、日本プライマリ・ケア連合学会学術大会と看護学会にて発表させていただいたんです。

福祉ネイリストとして研究をしている方は多くはないと思うので、実施するのは大変でしたよね?

そうですね。患者さん、医師や現場の看護師たち、リハビリのスタッフも一緒に研究に取り組んでくださったことがとても有り難かったですし、一人では研究に挑戦することはできなかったと思っています。一緒に研究に取り組んだ宮城県名取校の福祉ネイリストたちも本当に良い同志だと思っています。

佐久間さんが行った研究に関しての関連記事:福祉ネイルに関する研究発表を日本プライマリ・ケア連合学会学術大会にて発表!

 

今後の福祉ネイリストとしての展望

福祉ネイリストアワードでグランプリを受賞した際の発表の様子

今後福祉ネイリストとして挑戦したいことや取り組みたいことはありますか?

福祉ネイルの研究に関しては、これで終わりではないんです。本当は、より正確な研究データをとるためにも、施術数を増やしたいという想いがあったのですが、この新型コロナウイルス感染症の影響もあり、それが難しい状況になりました。そのため、まずは今あるデータを用いて、論文を書くということを研究チームで実施し、2021年冬に第51回日本看護学会論文集(慢性期看護)に掲載していただくことができました。

また、今新型コロナウイルス感染症が流行している中で、入院患者さんもご家族と会えないという状況が続いていますので、今だからこそできる病院内での福祉ネイリストの取り組みを模索中です。今年から、自分の所属する急性期病棟の患者さんに、ネイルシールを使用した5分ネイルを行っています。短時間でもときめく時間と触れ合いを大切にしたネイルを提供したいと思っています。その他、スタッフ自ら福祉ネイルの様子を写真に撮り、可愛くコラージュしてご家族に渡してくれることもあります。現場スタッフは皆「患者さんをご家族に会わせてあげたい、何かしてあげたいけど、できない」という葛藤を抱えています。そんな中で、ご家族としても「この病院にいてよかった、大事にケアしてもらえている」と少しでも安心していただけるよう、福祉ネイルを活用できたらと思っています。

昨年冬、病院内で福祉ネイリストが新しく増えましたので、これからは、私一人の取り組みではなく、チームを組んで取り組んでいきたいと思っています。

 

どんな福祉ネイリストが増えてほしいか

佐久間さんとしては、今後どんな福祉ネイリストが増えていってほしいという想いがありますか?

やはり医療の現場で福祉ネイリストの資格を持っている方がより増えてくださると嬉しいですよね。

病院という閉鎖的な空間の中で、福祉ネイルは特別な時間を創り出すことができますし、本当の願いとしては、こちらが月1回『福祉ネイルの日』を設定してネイルを提供するのではなく、「今この方に福祉ネイルをしてあげられたら良いな」という場面ですぐ提供できる体制になれたらと日々感じています。患者さんが不安な時や落ち込んでいる時、誕生日を迎えたその日など、病院内で福祉ネイリストが多くいれば、その場ですぐに提供するということが実現できるのではないかと思っています。

将来的には、病院内でも当たり前に福祉ネイリストが存在して、認知症ケアや緩和ケアの一つとして福祉ネイルが存在できるようになったらと思っていますので、医療の現場の中で福祉ネイリストの仲間がもっと増えていったら嬉しいですね。

 

医療や介護の現場に伝えていきたいこと

医療や介護の現場には、福祉ネイルをどのように伝えていきたいですか?

2017年から福祉ネイリストとして病院内で活動をしてきまして、最近は現場スタッフの方から「この人にネイルをしてあげたら良いんじゃない?」などと声をかけてくださったり、患者さんに福祉ネイルを紹介してもらえるようになったことがすごく嬉しいです。ネイルというと、まだお洒落が先行して捉えられやすいですが、それだけではなく、認知症の方や緩和ケアが必要な方に対しての“ケア”という考え方を大切にして福祉ネイルは存在しているということをもっと伝えていきたいですね。

そして、今は施術させていただいた患者さんから料金をいただいているという現状の中で、金銭の管理が難しい方や生活保護の方など、料金のやり取りが難しい方に福祉ネイルが届けられないという場面も少なからずあるのです。今後、必要な方に誰にでも福祉ネイルを提供できるように、国や各病院・施設から必要な財源をいただけるという仕組みになっていけたら良いなという願いもあります。そのためにも、福祉ネイリストとしての日々の活動の積み重ねや研究などで世の中に大きく発表し伝えていくという両方を行っていき、医療側から必要とされるようにしていくことが大事だと思っています。

 

まとめ

全国の福祉ネイリストの中では、副業として活動されている方も多くいらっしゃいます。そんな中でも、佐久間さんは看護師と福祉ネイリスト両方の強みを活かしながら、福祉ネイルと医療を繋ぐ架け橋になっている方だと思います。今後、病院内での取り組みや研究に関しても更なるご活躍を期待し、福祉ネイルが医療の分野でも必要な方に当たり前に届けられる世の中になることを祈っています。

髙橋 慶香(たかはし ちか)

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おじいちゃんおばあちゃんが大好きな作業療法士×福祉ネイリスト。その他、医療福祉系を中心としたWEBライターとしても活動中。モットーは「心が動けば体も動く」。

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