認知症に有用なユマニチュードとは ネイルで認知症ケアも⁉

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日本では年々高齢化が進み、内閣府が発表した平成29年度版高齢社会白書では、2025年には65歳以上の5.4人に1人ほどが認知症になるとも言われています。

認知症というものが世間でも周知されてきている現代ですが、症状を理解していても、いざ家族や大切な人が認知症になった場合には、誰しもがそれを受容できるわけではありません。穏やかであった方が記憶を保てなくなり、時には介護拒否や暴言を吐いてしまうことも。そんな現実に向き合っていくために、認知症に対してのケア技法も多くの場面で広まりつつあります。

今回は、認知症のケア技法として注目されている『ユマニチュード』を解説するとともに、実際にユマニチュードを活用して認知症高齢者の方にネイル介入をしている実例もご紹介していきます。

 

ユマニチュードとは

認知症は現代の医学では完治は難しいとされています。しかし、早期に発見し、薬物療法やリハビリ・適切なケアを行うことによって、症状の進行を緩和することはできます

そんな中で注目されているのがユマニチュードというケア技法です。1979年にフランスの体育学専門家であるイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティがケアの実践から創出したもので、日本でも2012年頃から導入されてきました。「人間らしさを取り戻す」という意味をもつフランス語の造語であるユマニチュードは、4つの柱を基本的なケア技術として提唱しています。

認知症になったとしても、ケアする側は相手の人間らしさを尊重し続け、「あなたを大切に思っています」という気持ちを伝え続けることが特徴です。

もちろん、認知症の方をケアするということは、決して心を穏やかに保てなくなることも多いでしょう。しかし、このユマニチュードという考え方を念頭に置いて接することで、介護拒否が減ったり、ケアする側・ケアされる側双方にとって良好なコミュニケーションが増えることに繋がります。だからこそ、認知症のケアを行う際にはぜひ知っていたいケア技法のひとつなのです。

 

ユマニチュードの4つの柱

ユマニチュードでは、ケアを行う側の心構えとして4つの柱というものがあります。下記で解説する4つの柱は、一つだけではうまくいきません。ケアをする際には、同時に複数の柱を組み合わせることで、ケアを受けている方に「あなたは私にとって大切な存在」ということを伝えることが大切です。

見る

ケアをする際に、非言語的コミュニケーションとして重要なのが「目線」です。ケアをしている側には気がつきにくいことですが、ベッドで寝ている方の横から立って話しかけると、ケアを受ける側は見下ろされ威圧感を感じてしまいます。

また、ケアの場面ではどうしても作業の対象部位だけをみてしまいがちです。例えば口腔ケアでは口を、オムツ交換では臀部を。

しかし、ユマニチュードでは、ケアを受ける側と同じ目線の高さで、正面から、そして、心地よいと感じる近い距離で目線を合わせることが大事とされています。「大切に想っている」という気持ちを伝えるためには、見るだけでなく、相手の視線をつかむことも必要です。そうすることによって、お互いが対等で、正直で、親近感を感じながらケアを行うことに繋がるのです。

話す

毎日のケアの中では、ケアがただの作業として流れてしまいがちです。無言でのケアは、相手の存在を肯定せず、支配しているかのように感じてしまいます。

そこで、ユマニチュードでは、オートフィードバックといってケアの動作を前向きな言語で実況するように伝えていくという手法があります。声のトーンや大きさ、選ぶ言葉に意識を向けながら、ケアの場面に心地よい言葉を溢れさせる工夫が必要とされています。

触れる

ケアの場面や移動を介助する際にも、必ずといっていいほど触れるという動作が生まれます。しかし、触れることはとても繊細な行為であり、触れ方によってはケアを受ける側の感じ方が180度変わってきます。例えば、移動する際に強く腕をひっぱったり、清拭でいきなり顔を拭いたりすると、認知症の方は嫌悪感や不信感が生まれやすく、介護拒否にも繋がる可能性があります。

そこで、触れる際には手のひらの広い面積で触れるつまんだりつかむことを避けるゆっくりと手を動かすことによって、相手を大切に想っているというメッセージが伝わりやすくなります。

また、まずは触れられても抵抗感の少ない背中や肩、上腕から触れて、次第に敏感な顔や手、唇などに触れるという順番も大事です。

立つ

人間にとって「立つ」ということは、人間らしさの象徴の一つでもありますし、立つことによってさまざまな機能の活性化にも繋がると言われています。

ユマニチュードを提唱したジネストは、1日合計20分立つ時間を作ることで立つ能力は保たれると言っています。ケアの中で、トイレや移動、整容などの際に立って行うことを取り入れるという工夫も重要とされているのです。

 

ユマニチュード実践の5つのステップ

ユマニチュードをケアの場面に取り入れる際には、全てのケアを一連の物語のように進めていきます。以下の5つのステップに沿って、4つの柱を組み合わせながら実施していくことが必要です。

Step1.出会いの準備

まずは出会いの準備として、自分が来たことを伝え、相手の領域に入っていいか許可を得ます。そして、ケアに入るということを予告するのです。

ここで大切なことは、相手が認識できるようにゆっくりと反応を待つということです。

Step2.ケアの準備

次のステップとしては、ケアの同意を得るということです。よくケアの場面で「今から〇〇しますよ」と一方的に宣言をすることがありますが、ユマニチュードではケアを受ける側に合意が得られない場合には、一旦諦めて出直すことも必要としています。

認知症の方にとって、嫌がることを無理やりやられてしまうと、嫌な感情が残り、今後のケアが穏やかに行えなくなってしまうことが多々あります。4つの柱を用いながら、ケアの同意を得られれば実施する、というプロセスを踏むこともお互いの信頼関係構築の中で大切になります。

Step3.知覚の連結

ケアの了承、準備が行えると、実際のケアに入ります。ここでは、ユマニチュードの4つの柱のうちの「見る」「話す」「触れる」の2つ以上を組み合わせてケアを行うことで、ケアを受ける側に「あなたを大切に思っている」というメッセージを伝えるのです。

例えば、背中をさすりながら話したり、目を見ながらケアの内容を伝えたり。日頃何気なく行っていることかもしれませんが、この要素を取り入れることで、ケアが双方にとって穏やかなものへと変化します。また、ポジティブな声かけや声色を意識することも重要です。

Step4.感情の固定

ケアが終了したら、プラスの感情でケアを受けられたことをご本人と振り返ります。「スッキリして気持ちが良かったですね」や「お話ができて楽しかったです」など、前向きになれるコミュニケーションをとり、ケアを受ける側にとって「この人は嫌なことをしない人」というポジティブな感情の記憶を残すように心がけます。

Step5.再会の約束

そして最後に、次のケアを受け入れてもらうための準備として再会の約束を交わします。認知症で短期記憶障害があるから忘れてしまうだろうという思い込みをやめ、「また来てくれるんだ」というポジティブな感情に働きかけます。

そうすることで、次のケアに入りやすくなるのです。

 

ユマニチュードの目的・効果

ユマニチュードをケアに取り入れたことでの対象者の変化や効果は、実際の事例として数多く報告されています。そこで、ユマニチュードを行う目的や効果を「ケアを受ける側」「ケアをする側」と分けてそれぞれ解説します。

ケアを受ける側の効果

ユマニチュードというケア技法をケアに取り入れると、下記のような変化が見られることがあります。

  • 今まで介護拒否があり、無理やりケアを行っていたがスムーズにケアを行えるようになった
  • 認知症の方の混乱や暴言が減り、穏やかにいられる時間が増えた
  • できることを維持しやすくなる

ケアをする側の効果

ユマニチュードをケアに取り入れることは、ケアを受ける側だけに良い効果があるわけではありません。認知症の方をケアする時には、時に苛立ちやもどかしさなど介護者にとって負の感情を抑えられないこともあるでしょう。

そんな中でも、ユマニチュードの考え方を意識することで、「なんでこんなにしてあげているのに」という気持ちや「優しくしてあげたいのにできない」という罪悪感を軽減させることに繋がります。双方に穏やかな感情が生まれ、ケアがスムーズに行いやすくなるだけでなく、互いに信頼感や充実感を得られやすくする効果があるのです。

 

ユマニチュードを取り入れた福祉ネイルとは

ユマニチュードは、介護現場で職員や家族が用いることが増えてきておりますが、福祉美容の分野でも取り入れられているのをご存知でしょうか。

2012年から“福祉ネイル”として、高齢者や障がい者の方への訪問ネイルサービスを開始した一般社団法人日本保健福祉ネイリスト協会(2014年時の名称:シニアメンタルビューティー協会)は、現在全国に1,700名を超える福祉ネイリストたちを輩出しています。

福祉ネイリストたちは、高齢者や障がい者、病気を患いながらも懸命に生きている方々のもとへ訪問し、マニキュアでのカラーリングやネイルケア、ハンドトリートメントを施術します。

福祉ネイルの特徴は、ネイルサービスを通じて爪をキレイに彩るだけでなく、ユマニチュードや回想法といったコミュニケーションケア技法を用いて、手と手の触れ合いや会話を大事にするということです。そのため、福祉ネイルを行うことで、美の提供とともに、癒しの効果や認知症の周辺症状の軽減、QOLの向上などの効果も目指しています。

福祉ネイリストについて詳しくはこちらをご覧ください。

 

2019年からは、日本で初めてのネイルに関する研究集会が開催され、福祉ネイルを行うことでの認知症高齢者への効果についての研究も発表されています。

第1回から第3回研究集会の発表演題(抄録)はこちらのページからご覧いただけます。

 

このように、日常のケアの中だけでなく、ネイルという楽しみの中にユマニチュードというケア技法を取り入れて、プラスの相乗効果を生む福祉ネイルというものにもぜひ注目していただきたいと思います。

 

まとめ

認知症高齢者が年々増えてきている現状の中で、認知症の方をケアしている家族・医療従事者・介護スタッフも相関して増加しています。少子高齢化や介護の人手不足が叫ばれているのも事実で、ケアの実状は決して穏やかなものばかりではないでしょう。

しかし、認知症への理解や考え方、ケア技法をより深く知ることで、ケアをする側が少しでも心のゆとりを持てるようになるかもしれません。ケアを受けている方はきっと大切な人であることに変わりはありません。ユマニチュードという一つのケア技法を取り入れ、ケアを受ける方・ケアをする側、双方に少しでも笑顔が増えますように。

髙橋 慶香(たかはし ちか)

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おじいちゃんおばあちゃんが大好きな作業療法士×福祉ネイリスト。その他、医療福祉系を中心としたWEBライターとしても活動中。モットーは「心が動けば体も動く」。

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