認知症に対する回想法とは 回想法を用いたレクリエーションをご紹介!
日本では65歳以上の高齢者が年々増加しています。そんな中、2020年時点で65歳以上の高齢者のうち6人に1人程度が認知症を発症しているとも言われているのです。
認知症という脳の病気は完治することが難しく、早期発見、早期治療により予防や進行を遅らせることが大事とされています。認知症に対する薬物療法として治療薬の開発が日々進められていますが、一方で薬を使わない“非薬物療法”を行っていくことも大切です。
そんな非薬物療法の中でも、認知症の改善や予防に効果が期待されているのが回想法です。今回の記事では、回想法の効果ややり方を解説しながら、実際に回想法を取り入れながら行えるレクリエーションをご紹介していきます。
回想法とは
回想法とは、1960年代にアメリカの精神科医ロバート・バトラー氏が提唱した心理療法です。昔使っていたものや懐かしい写真、音楽などを見たり聞いたり、触れながら、昔の経験や思い出を語り合います。
特に認知症高齢者の場合、最近の出来事よりも昔の記憶の方が保たれやすいという特徴があります。昔の楽しかった出来事を思い出しながら語ることで、脳の活性化やプラスの感情を生むことに繋がり、認知症の治療として効果が期待されているのです。
そして、回想法は認知症のご本人に「話してもらうこと」が大切です。そのため、リハビリやレクリエーションなどにも取り入れやすく、汎用性が高いというのも認知症治療として用いられている理由ではないでしょうか。
回想法の効果
回想法ではさまざまな効果を得ることができます。短期記憶障害や見当識障害(場所や時間がわからなくなってしまう)などを伴う認知症の方にとって、昔を懐かしく思い出し、語り合うことは認知症の治療だけに限らず、うつ病の予防や改善にもなります。
回想法の具体的な効果を解説していきましょう。
脳の活性化
昔の記憶を思い出したり、相手に話をすることで脳が活性化されます。実際に、認知症高齢者が回想法を行うことで、脳の血流が増えたり、認知機能が改善したという研究結果も数多く示されています。
精神的な安定をもたらす
認知症になると、なぜ自分がここにいるのか、知らない場所にいるという混乱や不安から不穏になる方も多いです。
覚えている昔の楽しかった記憶を辿り、話すことで、その時感じたプラスの感情を思い出すことができます。また、自分の話を相手に聞いてもらえるという安心感も得られ、精神的な安定を図ることもできるのです。
自己の尊厳を取り戻す
加齢や認知症により、「自分でできることが少なくなってしまった」「自分が何者なのかもわからなくなってしまった」と、高齢者の方は自分の尊厳を失いがちです。
回想法で、いきいきとしていた頃の自分やこれまでの自分を思い出すことで、自己を再確認し、家族や大切な人の記憶も紡いでいきます。そうすることで、自己の尊厳を取り戻したり、過去と今を繋ぐきっかけをつくっていきます。
コミュニケーションを良好にする
思い出を語り合うことや楽しかった記憶を辿ることは楽しい時間であり、他者との間に良好なコミュニケーションを生みだします。
介入者にとってもご本人の生きてきた過程やルーツを知ることで、より温かな支援ができたり、双方にとって安心感を得ることができます。周囲と穏やかな時間を共有することで、今後ご本人が安心して生活できることにも繋がっていくのです。
回想法のやり方
回想法を行うためには、1対1で行う場合と10名程度のグループで行う場合があります。それぞれ、その方の状態に合わせてより良い方法や環境設定をすることが大切です。
実際に回想法を行う際に知っておきたい事柄を下記にまとめました。
1対1もしくはグループで実施
1対1で回想法を行う場合、一人は回想法を理解しているスタッフや家族が話題の提供をします。必ずしも、医師やリハビリ専門職である必要はありません。話してもらうきっかけを作り、ご本人が気持ちよくお話してくれるよう傾聴の姿勢をとりましょう。また、会話をする際は、対面よりも90度の位置に座ると、より自然にお話ができるとされています。
一方で、複数人のグループで回想法を行う場合には、スタッフが1∼2名入り、最大10名程度のグループで行いましょう。時間は1時間程度とし、スタッフはあくまでも話題の提供を行い、参加者の方に話してもらうことを大事にします。事前に、参加者の情報を得て、触れない方が良い話題は避けて楽しい雰囲気で話せる環境を作るようにしましょう。
準備すること
回想法は、ただ話せば良いということではなく、しっかりと事前に準備することが大切です。下記に準備や考えるべき事項をまとめました。
患者さんに合った方法の選択と環境設定
認知症の患者さんご本人の性格や状態から、1対1もしくはグループどちらの方法が適しているかを判断します。そして、安心して穏やかな気持ちでお話ができるよう静かな場所が良いのか、いつも座っている席が良いのか、周りの環境設定も考えていきましょう。
事前情報の取得
患者さんの生育歴や背景などを事前に調査し、どんな話題運びをした方が良さそうか、触れない方が良い話題などをシュミレーションしておくことが大事です。
話をしている間はあくまでも傾聴の姿勢をとりますが、ご本人が気持ちよくお話できるよう自然と促すということが回想法において必要となります。
昔を思い出すきっかけのものを準備
回想法を行う上で、絶対必要というわけではないですが、思い出すきっかけのものや音楽があると、よりスムーズに話し出すことができます。その方の子どもの頃流行ったものや、楽しい記憶を思い出せる写真やものなどがあれば、事前に準備してみましょう。
注意すべき点
そして、回想法を行う上で注意すべき点というのもあります。特に以下の4つのポイントを意識しながら、実施するようにしましょう。
無理に思い出させない
昔の記憶を思い出してもらう回想法ですが、無理に思い出させようとしてはいけません。あくまでも、自然な会話から、ご本人が思い出したい話題を探っていくことが大切です。
無理に思い出させようとしてしまうと、ご本人の不安や不穏を助長してしまうことになり、実施しているスタッフへ嫌悪感が生じてしまう可能性があります。
否定・訂正はしない
認知症の方と接する上で大切にしたいことは、「否定や訂正はしない」ということです。回想法では、ご本人に気持ちよく話してもらうことが大切ですので、その話題に対して、否定したり、訂正する必要はありません。傾聴する気持ちを大事に行う必要があります。
他の人には話さない
回想法では、ご本人のプライベートな話題を話してもらうため、その話題を無断で他者に話してはいけません。特にグループで実施する場合にも、参加者が安心して話ができるように、声かけや配慮をしましょう。
業務上共有した方が良いと思われる事象に関しては、ご本人やご家族に許可をとり、共有すると良いでしょう。
最後はポジティブな感情で終わらせる
いろんなお話をしていく中で、悲しかった記憶や嫌な気持ちが出る場面もあるでしょう。その時は、スタッフが話題を上手く切り替えたり、誘導するのも必要です。
特に、会話が終わるときには、ご本人がポジティブな感情で終了できるような話題運びが重要となります。
回想法を取り入れたおすすめレクリエーション
回想法の概要ややり方をご紹介してきましたが、回想法は汎用性が高く、さまざまなレクリエーションの中に取り入れることができます。楽しめるレクリエーションの中に回想法を取り入れることで、より認知症予防や脳の活性化という効果を期待することができます。
そんな回想法と相性の良いレクリエーションを4つご紹介していきましょう。
昔馴染みクイズ
介護施設等で取り入れやすく、集団レクとして楽しめるのが昔馴染みクイズです。
- 昔流行った曲を流して曲名を当てる
- 懐かしいものを見せて、名前や使い方を答えてもらう
- 懐かしい地域の風習や行事を問題として出す
など、誰しもが昔を懐かしみ、思い出せるようなクイズを出題します。そのクイズにちなんで、それぞれ持っているエピソードを話してもらうと、ご本人も気持ちが明るくなりますし、みんなで盛り上がることができます。
料理
個別もしくは集団で懐かしい郷土料理を作るのも回想法を取り入れることができます。特に女性は家族のために料理を作っていた経験がある方が多いので、料理と一緒に家族の記憶を思い出せることにも繋がります。
人は認知症で最近の記憶を忘れてしまっても、「手続き記憶」といって、料理を作る動作を体で覚えていることがあります。また、匂いは記憶を思い出すきっかけとして大きな効果を生むので、料理を作るレクリエーションや懐かしい料理を食べるだけも、そこに回想法としての会話を取り入れれば、認知症への治療的な介入の効果を期待することができるのです。
昔の遊びを再現
昔懐かしいおもちゃを用意し、遊ぶというレクリエーションも回想法との相性がとても良いです。例えば、コマやあやとり、花札やお手玉など。実際に遊びながら、「どのように遊んだか」「誰とよく遊んだか」などの会話を行うと、楽しみながら昔の記憶を思い出すことができます。
福祉ネイル
福祉ネイルとは、認知症や高齢者の方に対する専門知識を学んだ福祉ネイリストが1対1でネイルを施術する訪問サービスです。マニキュアを使ってお好きなカラーを塗布し、1本の爪にアートを施します。
福祉ネイリストが施術を行う際、ただネイルを塗って爪をキレイにするというわけではなく、会話の中に回想法を取り入れながら施術するのが特徴です。アートを描く際、事前にご本人の思い出深いものを伺い、爪に描きながら昔を懐かしむ会話を行うこともできます。このような介入で、実際に認知症高齢者の行動心理症状(BPSD)の軽減やQOLの向上を図るという研究も進められています。
爪をキレイに彩るということは、年齢関係なく嬉しいことです。キレイになる喜びとともに、回想法として認知症への治療的介入の目的も含められるのは、レクリエーションとして魅力的ですよね。
まとめ
回想法はやり方や注意点をしっかり理解すれば、医師やリハビリ専門職でなくとも実施できます。そして、認知症の治療においては、薬物療法だけでなくリハビリや回想法といった非薬物療法がとても重要とされています。
回想法というちょっとした視点を持つことで、普段の会話も認知症高齢者の方の気持ちの安定や治療的介入の意味合いを含めることができるのです。
時には、レクリエーションや福祉ネイリストなどを活用しながら、日々の生活に回想法を取り入れてみてください。