介護施設や訪問介護等の業界全体が抱える課題とは?背景にある社会問題・解決策と一緒に解説

介護施設の現場や業界全体が抱える課題とは?背景にある社会問題・解決策と一緒に解説

人口に占める高齢者の割合が年々高まっていることを受けて、日本では近年、介護施設や訪問介護事業所等の介護の現場で働く人たちへの需要が高まり続けています。しかし介護の現場、そして介護業界全体には、社会問題を背景とした解決困難な課題がたくさんあるのも事実です。

そこで今回は、介護施設・業界が抱える代表的な課題について、その背景にある社会問題や、課題解決のために各施設でできる取り組みの具体例等と一緒に紹介していきます。

介護施設をはじめとした業界全体が抱える3つの課題

まず、多くの介護施設をはじめとした介護業界全体が抱える課題としては、以下3つが挙げられるでしょう。

課題その①深刻な介護人材の不足

2019年度時点の都道府県による推計をもとに厚生労働省が公表したデータによると、2025年度には約243万人(2019年比で+約22万人)もの介護人材が必要になると考えられています。さらに2040年には、約280万人(2019年比で+約69万人)の介護人材が必要になると推計されていることから、日本社会全体における介護人材への需要が高まっていることがわかるでしょう。

【参考】介護人材確保に向けた取組について|厚生労働省

一方で、介護サービス事業所における従業員の不足状況に関する調査結果によると、訪問介護員でおよそ58%、介護施設等の職員でおよそ36%が「人手が不足している」と答えています。

実際、介護関係職種の有効求人倍率を見ると令和5年3月時点で3.63倍となっており、全職業の1.13倍に比べて高くなっています。これらの事実から、介護施設をはじめとする介護の現場では需要に供給が追い付いておらず人手不足が続いていること、また人手不足ゆえに過酷な労働環境になりやすく、待遇や給与に関する不安・不満も高まりやすい状況になっていると言えるでしょう。

【参考】介護人材の処遇改善等(介護人材の確保と介護現場の生産性の向上)|厚生労働省

人手不足、またこれによる労働環境や待遇の悪化は、介護施設や業界全体が抱える最も代表的な課題であり、後述する他の課題の原因ともなっているものです。

課題その②利用者へのケア不足や虐待の増加

介護人員が不足すると、当然ながら一人ひとりの介護職員にかかる負担が大きくなります。

介護職員の業務は、入所・通所する高齢者への食事・排泄・入浴・着替え等の介助、見守り、掃除や洗濯、そして介護記録等を残すための事務作業まで多岐にわたります。これらすべての業務をこなさなければならない状況で、自身が担当する利用者様の人数が増えていくと時間に追われるようになり、一人ひとりの利用者様へのケアが行き届かなくなってしまうのです。

また業務過多によるストレス、教育不足等が一因となり、介護者が要介護者を虐待するケースも残念ながら全国で発生しています。

課題その③施設の倒産や介護難民の増加

介護人材が不足しているということは、必要な人員を確保できず倒産する介護施設や、介護が必要なのに受けられない、いわゆる「介護難民」が増えていく可能性があるということです。

厚生労働省の発表によると、要介護3以上の認定を受けて特別養護老人ホームへの入所申し込みをした方のうち、入所できていない人は、令和4年度時点で25.3万人いらっしゃいます。

このように公的介護施設等への入居待ちのため、必要な介護を受けられない状況が続く介護難民の数は、介護人材の不足が続く限り増えていくと考えられるでしょう。

【参考】特別養護老人ホームの入所申込者の状況 |報道発表資料|厚生労働省

介護施設の課題の背景にある二大社会問題とは?

介護施設の現場や業界全体が抱える課題とは?背景にある社会問題・解決策と一緒に解説

ここまでの内容から、介護施設・介護業界には人手不足という大きな問題があり、それがケア不足や虐待、施設倒産、介護難民の増加といった他の課題を生んでいることがわかりました。

それでは介護職員の不足は、主にどのような理由から起こっているのでしょうか。以下からは、介護施設や介護業界における課題の背景にある2つの社会問題について説明していきます。

2025年問題に代表される超高齢化社会

2025年問題とは、1947〜1949年の第1次ベビーブームで生まれた団塊の世代と呼ばれる人たちが、75歳以上になる際に起こると想定される諸問題のことです。具体的には、高齢者人口が約3,500万人に、そのうち認知症の高齢者数が約320万人に達する上、高齢者世帯のおよそ7割が一人暮らしまたは夫婦のみの世帯になると見込まれることから、介護にまつわる以下のような問題が起こると予測されてきました。

【参考】今後の高齢化の進展~2025年の超高齢化社会像~|厚生労働省

  • 高齢者の一人暮らしが増え、本人が自覚しないまま認知症や介護度が進行したり、犯罪に巻き込まれるリスクが高くなる
  • 高齢の夫婦がお互いを介護する老老介護、または認知症を発症した夫婦がお互いを介護する認認介護状態の世帯が増える
  • 家庭の事情により、18歳未満の子供が高齢者等を介護するヤングケアラーが増加する

なお内閣府の発表によると、令和4年度の時点で65歳以上の人口は3,624万人となり、総人口に占める高齢化率は29%にのぼっています。また65歳以上の方のうち一人暮らしをする人の割合も、令和2年度時点の実績値で男性が15%、女性は22.1%にまで上昇してきているのです

【参考】令和5年版高齢社会白書(全体版) – 内閣府

超高齢化社会になると、高齢者数の増加に反比例するように介護を担うべき若い世代の人数が少なくなっていきます。そうなると、介護に従事する人材が減少し、さらに子が親を介護する世帯も少なくなっていくため、介護を担う人材の不足は一向に解消されず、介護難民の増加に拍車がかかっていくと考えられます。

社会保障に関わる費用・財源の不足

介護施設等、介護事業所の収入は、介護サービスを利用する方からの支払いと社会保障費用の一種である介護報酬から成り立っています。そして社会保障費用とは、健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険として納められる保険料に、税金や借金(国債)を加えた「国民が介護や医療等の社会福祉を受ける際に使うことのできるお金」のことです。

社会保障費の財源となる保険料、税金をメインで納めているのは、所得の多い現役世代です。少子高齢化が進むと働ける世代が減り、社会保障費の財源も不足するようになりますが、一方で高齢者人口は増えていくため、医療・介護サービスのための支出は増えていきます。

介護保険サービスを提供する介護施設の場合、決められた単価の介護報酬を含む売上をもとにスタッフの給与を支払っています。つまり、社会保障費用の財源不足が続けば、施設の経営状況の悪化や給与減額等、今ある介護業界の課題解決がより困難になる恐れがあるのです。

高齢化社会と社会保障費の財源不足、この2つの社会問題が密接に関わり合って介護施設・介護業界の課題である人手不足や、介護難民の増加を引き起こしていると理解しておきましょう。

介護施設の課題を解決するための取り組み例

介護施設の課題の背景にある二大社会問題とは?

介護施設・業界が抱える課題の背景には、日本の社会問題が潜んでいます。そのため、一朝一夕に課題を解決するのは難しいですが、現状の悪化を防ぐとともに、少しでも改善するために各施設ができることはいくつかあります。

そこで以下からは、介護施設の課題を解決するための取り組みについて、具体例を3つ見ていきましょう。

介護職員のメンタルケアを行う

先述したように、介護職員の仕事は多岐にわたります。また利用者様をはじめ、そのご家族や他の職員との人間関係に気を配り、人手不足な環境の中で働かなければならないため、多大なストレスを溜め込んでしまう方が少なくありません。

そこでおすすめしたいのが、施設の状況に合わせて以下のような取り組みを行い、介護職員にメンタルケアを行うこと。精神的な緊張がほぐれ、ストレスが軽減されれば自らの業務課題や利用者様に向き合ったり、他の職員を教育する余裕やモチベーションが生まれる他、離職率を下げる効果も期待できます。

  • 悩みや業務で困っていること、業務効率化のための意見等について上司が聞き取りする
  • 聞き取りや面談の際は、本人が話したい事について詳細に聞き出し、労働環境や施設の改善のために活用する
  • 職員同士のコミュニケーションがうまくいっていない時は、時間を取って話し合う
  • 聞き取りの結果、メンタルケアが必要な職員がいた場合は、サポート体制の構築や異動を含む対策を検討する
  • 1年に1回を目安に、職員全員にストレスチェックを実施する

働き方・雇用形態を多様化する

正社員の採用は、他の雇用形態に比べてハードルが高いもの。ただでさえ介護職員が足りていないのに、正社員の採用だけにこだわっていては、人手不足の課題解決につながりません。

人手不足、またこれによる介護施設の課題を解決したいなら、思い切って働き方や雇用形態を多様化させるのがおすすめです。正社員や契約社員といったフルタイムで働く人の他、パートタイマーやアルバイト等、短時間で業務を助けてくれる人員も積極的に雇い入れて、職員同士がお互いに無理なく助け合える環境を整備していきましょう。

介護職は、無資格・未経験からでも始められる仕事です。その特性を活かし、特定技能の在留資格を持つ外国人労働者も対象として、広く採用の門戸を開いてくださいね。

定期的に外部の団体・人材の力を借りる

介護施設の入所者・通所者の利用満足度を高めたり、ケア不足の課題を解決するためにできることを探している場合は、定期的に第三者の力を借りるようにしても良いかもしれません。

例えば、人員が不足した介護施設では、ケア不足だけでなくレクリエーションのマンネリ化から利用者の満足度が低下する場合もありますよね。そんな時は、定期的に外部の事業者を呼んでイベントを開催したり、介護職員にはできない美容レクリエーション等を提供すると、利用者の満足度向上と介護職員の負担軽減に役立ちます。

また補助金を活用し、ITやICTの導入で情報の伝達・共有をスムーズにして事務作業を効率化したり、見守りセンサーやパワードスーツ等の新しい機器を取り入れて課題解決を図るのも良いでしょう。

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介護施設で働く人と入所・通所する高齢者、みんなをケアできる課題解決策を探してみよう

介護施設で働く人と入所・通所する高齢者、みんなをケアできる課題解決策を探してみよう

介護施設・介護業界が抱える課題は、日本の社会問題と密接に関わっているため、根本的な解決は難しいと言わざるをえません。しかし、少しだけ考え方や視点を変えてみれば、介護職員や利用者様のために変えられること、今すぐにでもできる改善策はあるはずです。

施設で働く職員はもちろん、施設に入所・通所される利用者様の状況も改善されるような課題の解決方法や取り組みがないか、考えてみてくださいね。

なお、一般社団法人 日本保健福祉ネイリスト協会では、高齢者や障がいのある方々に楽しみや喜びを感じていただける機会の一つとして、福祉ネイルというサービスを提供しています。

福祉ネイルとは、ご要望に応じて介護施設等やご自宅に伺い、その方のお身体の状態に合った施術を一般的なネイルアートよりも短時間で提供するものです。施術中には「見る」「話す」「触れる」「立つ」要素を取り入れたコミュニケーションを実施する他、複数のネイリストでお伺いした場合には、施設職員様の許可を得た上で利用者様の補助をしたり、利用者様のお話相手になることもございます。

「利用者様へのケア不足を補い、満足度を向上させたい」「レクリエーションがマンネリ化している、他施設と差別化したい」「利用者様だけでなく職員の楽しみ、身体的負担の軽減にもつながる試みを探している」等とお考えの際は、ぜひ当協会までお気軽にご相談ください。

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